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「名前はどんな部活が良いとかあるの?」

「いえ。特に決めてはないのです。だから一応全部見て回ろうかと。」

「へぇー……本当は?」

「兄様には敵いませんね……。……たくさん堪能したいので、男子も女子も全部回りますよ。」

「やっぱりね。」



騎士団の時のような、何を企んでいるのか分からない笑みでニタリと笑う兄。
スパイ役としてスネイプと共に二重スパイをしていた兄には駆け引きでは敵わない。



そんな茶番を交えつつ、名前と兄はぐるぐると校舎を回りつつ、部活を見学していった。
時々クラスメイトに声をかけられ、その人は誰だのうちの部活を見学しに行ってだのと引っ張りだこ状態だった。
それを傍らで笑いながら眺めていた兄を小突きながら、やっと最後の部活へと来た。


部活は終了時間が早い順から見て回っているから、この男子テニス部が一番この学校で部活が終わるのが遅いという事だ。

名前には関係がない部活だが、この世界を楽しむため、やはり見ておかなくてはならない。



しかし。



「ねぇ名前、本当にあそこに入るの……?私無理……本当に無理……。」

「兄様。これも私達に課せられた使命。全うするしかありませんよ。」

「嫌よ……本当に無理……何あの女子の量……最早動物園のパンダ見に来た勢いじゃない……何あれ……。」




テニスコートの周りには、女子、女子、女子。
どこを見ても女子ばかりで、肝心の部員達が一人として見えない。
それにテニスコートは金網で仕切られ入れないため、兄の言ったように動物園と表したのも、あながち間違いではない。

金網の周りを取り囲む女子達の図。中の人達もあの状況の中、よく部活ができるものだ。




「ねぇやめましょう名前。今なら間に合うわ。お兄ちゃんもう気持ち悪くなっちゃった。」

「やっぱり諦めるしかないのでしょうか……どんな部活だけでも知れたら良かったのですが……。」

「今日は私の愛車に乗ってドライブがてら夕飯買いましょ。」

「……分かりました。あ。」

「?名前?」

「そうだ兄様、見て欲しいものがありまして!」




来て下さい!と名前達はテニス部に来て早々に立ち去り、走り出した。









「ここなんですけども!」

「あらぁ立派なパーゴラね。イイじゃない?」

「ですよねぇ。」




名前達が着いた場所は、朝名前が最初にいた生垣の中。
名前は案外この場所が気に入っていて、最初にいた場所という事もあり、思い入れもある。


それにこの場所は今日クラスメイトに聞いてみた所、誰も寄り付かず今はそこに存在するだけという場所になっているらしい。
それならばと都合が良いと名前はここをこれから自身の溜まり場としようと考えたのだ。



しかし今名前は魔法が使えないため、パーゴラは直せない。それならば兄はどうなのかと思ったのだ。
兄もあちらの世界では魔法使いであるから、自身は使えなくとも兄が使えるかもしれない。



「兄様、魔法は使えますか?」

「えぇ使えるけど、パーゴラを直せって?」

「話が早くて助かります。」




そういえば名前は何も知らないものね……と呟きながら、兄は懐から杖を取り出しパーゴラに向けて一振り。
するとたちまちパーゴラは元の形を取り戻し始め、純白のパーゴラとなった。




元の色は白だったのですね……。



パーゴラの美しさにほぅと息をついていると、ふと兄の言葉が胸に引っかかった。



「兄様……。」

「フフ、今日はもう帰りましょ。話はそれから。」



頭をぽんと撫でられ、はぐらかすように笑われる。




やはり兄には敵わないなと考えながら、名前は兄からもう一つのヘルメットを借りてバイクに乗った。


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