「ご馳走様でした。」
「お粗末様です。」
今日からここはあなたの家よ!と言われ入った家は、一言で言うならば魔法界での自身の家に似ている外観だった。
白い円筒型の家の上に、申し訳程度に赤い円柱型の屋根がついている。
窓はそこかしこについていて、鳥の休み場所のような出っ張りがある。
黒色の門扉は名前よりも高く、蔦や花が控えめに絡みついていた。
家の隣には温室と庭と花壇があり、植物が好きな名前にとっては至福だった。
まるで魔法界での自分の家をそのままここに持ってきたかのような、そんな家だった。
名前が作った夕飯を食べ終え、食後のデザートと紅茶を頂く。
ふと兄がデザートフォークを置き、紅茶を傾けながら話をし出した。
「さっきの続き、しましょうか?」
「突然ですねぇ……良いですよ。丁度落ち着いていますし、知りたいですし。」
紅茶をちびちびと飲みながら、兄は一つ一つ丁寧に語り出した。
やはり原因は名前の思った通り、ポートキーとの接触だった。
しかしそれまでの経緯が、名前の予想に反するものだった。
兄が寝ている名前に、ポートキーを触れさせてしまった事が原因であったのだ。
「何故私を別の所へ飛ばすような真似を……?」
「……それは完全なるミス、と言えば良いかしらね……。」
ミス?と名前が首を傾げると、つまりは珍しい作りのポートキーを手に入れたから、名前に見せに行こうと向かった。
しかし床に落ちていた薬剤に足を引っ掛け転んでしまい、名前のみポートキーでどこかへ飛んで行ってしまったとの事。
何ですかそれ……完全なるとばっちりじゃないですか……!
「ごめんねぇー、その後私も姿あらわしで追いかけたんだけど、あなた若返ってるわ魔法使えないわ変な学校入学してるわ、もう大変だったんだから!」
「……私、若返ってるんですか……?」
「そうよ、ほら。」
と手鏡を渡され自身の顔を見てみれば、見事十歳程若返っている姿がそこにあった。
通りで自分が中学に転入してきても違和感のないはずだ、と思う。
「……反応薄いわね……?」
「そりゃあ、魔女ですから……?」
「まぁ分からなくもないけど……。この若返りとか、他には名前だけ魔法が使えないのも、このポートキーのせいなの。だけど魔法に関しては、どうにかすれば使えるようになるけれど、どうする?」
「では、使えるようにしてくださると嬉しいです。」
オッケー!と女性のように可愛らしくウインクした兄は、懐から杖を取り出し名前に向けてクルクルと杖を振る。
するとたちまち身体が軽くなったような気がして、早速姿あらわしを試してみた。
で、できました……!
座っていた所から玄関の前に姿あらわしした瞬間、感動に打ち震えた。
魔女はやはり魔法を使えないと話にならない。魔法が使えないと知った時、受け止めつつも少々泣きそうになっていたのだ。
魔女であるという威厳が、名前の中にも密やかにあったのだ。
「兄様……!ありがとうございます……!!」
「良いって事よ。可愛い妹のためだもの。あ、それとこれはあなたの杖。勝手に連れてきちゃったから、机の上に置きっぱなしになってたのよ。」
はい、と兄は名前に杖を手渡す。
白く細く、細かい装飾がなされたそれは、名前の手に酷く馴染んだ。
これがなければ、やはり私は私じゃないですものね……!
静かな高揚感に浸っていると、それじゃあ私はこれで、と兄は帰り支度を始めた。
「あ、兄様、帰るのですか?」
「えぇそうよ?私働いてるから、そこへ戻らなきゃならなくて。」
「兄様……働いているのですか……?」
「そ、仮にも私のミスで名前を飛ばしちゃったからね。せめて無理はさせたくないから、良い働き口を見つけたから今はそこで住み込みで働いてるの。」
「そんな……私も働けます……、」
「中学生が生意気言うんじゃないの。大人しく甘えときなさい。」
「痛いっ!」
えいっと可愛らしい掛け声と共に兄にデコピンを繰り出され、何も言えなくなってしまった。
確かに中身は二十を超えた女だが、今はただのか弱い女子中学生。普通ならば養われ守られなければならない立場だ。
しかし名前はあまり納得出来ていない。自ら望んでこうなった訳ではないので、尚更だ。
む、と顔を顰めて兄を睨むと、兄は自覚はあるのか苦い顔をして顔を逸らす。
そのままお互い何も言わず数分経過。
先に折れたのは兄の方だった。
「……分かったわよー……、長い休みとか放課後とかなら、ね……。」
「本当ですか!?流石兄様です!!」
「仕方ないわね!まぁ上司に聞いてみるわ!今人で足りないらしいから大丈夫だとは思うけれど。」
「ちなみに、兄様は何の仕事を?」
「何って……使用人。」
「へ?」
「だから名前はメイドね!私は執事よ!これからよろしくね!」
早速断っても宜しいでしょうか。
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