合法ショタはいいぞ… 1






ふと気がついたら日本のヨハネスブルクと名高い米花町に住んでた時の話をしようと思う。


あの時はまだ小学生でランドセルを背負っていた幼気な私。
そろそろ小学校も卒業かー、来年から私も中学生だー。
なんて呑気に考えていた私の前に現れたのは、昔から何かと構ってくるお兄さん。
曰く、来年から通う高校の制服の試着をしていてその姿を幼馴染である女の子に見せにいくのだと。
どこか浮足立ったようなそのお兄さんの表情と、既視感のあるその制服に私はふと思い出したのだ。
あっ、ここコナンじゃん。
一日に平均して4件くらい殺人事件が起きて解決してるとか言われてたり言われてなかったりするコナンの世界じゃん。
ということは私これ転生トリップとかいうやつじゃん?
そこまでじんわりと思い出した私は、目の前であれこれ話しかけてくるお兄さんに愛想笑いを張り付けた顔で



「うん、凄く似合うよ新一さん。
早く蘭さんに見せてきたら?」



なんて控えめに声をかけて早足でその場を立ち去った。
やだーーー昔からなんかやたらと絡んでくると思ってたお兄さんって工藤新一じゃないですかーーーやだーーーーー!!
下手に関わると私死んじゃうのでは…?
と思ったけど私の記憶が確かなら私くらいの年齢の子供が事件の被害者になることは比較的少なかったような気がする。
いや、あれだけの巻数の漫画を全て読破したわけでもなければアニメを一から欠かさず見ていたわけでもないからあれなんだけど。
転生トリップした私の立ち位置は、工藤新一や毛利蘭の幼馴染……と言えるほどの交流はないもののどういうわけだか昔から二人は私にあれこれ構ってくる。
二人よりも年下で、昔うちの母親と公園に行った時遊んでいた二人に
『よければうちの子と遊んであげて?この子ったら引っ込み思案で友達少なくて』
なんて声をかけたせいかそれ以来顔を合わせると話しかけてくるようになったのだ。
我が母ながらとんでもないことをしてくれたな……。

ついさっき前世である二十代後半社会人女性であったころの記憶を思い出したとはいえ、思い出す前とたいして私の性格は変わっていない。
紙の中やテレビの中にいる平面が最高、三次元はクソだな、なんて思っていたことは別に変わっていても良かったのになぁと思わなくもないが。

そもそも私はあまり工藤新一という人物が好きではない。
だって考えてみてほしい。
リア充だぞ?
勉強もできて?運動もできて?顔もイケメンで?高校生探偵として徐々に名を馳せていって?
おまけに家はお金持ちなんだぞ……?
そんな人間に構われて、頬を染めて喜ぶどころか「ひええリア充こわわ……」という感想しか抱けない私はそれでも何故か顔を合わせる度に絡んでくる工藤新一に眉を下げて笑いながら言葉少なに相槌をうつ、という対応をしてきた。
それでなんとなく察してほしかったし、思春期なんだから『こんなガキに構ってられねーよ』とか舌打ちでもして疎遠になってほしかった。
そんなキャラじゃない?
多少そういう面があったっていいのよ…?という話である。

だがしかし工藤新一はそんな控えめな対応をする私を見て
「なまえは聞き上手だよな」
なんて笑いながらもう幼馴染は耳にタコができるくらい聞かされて最近ではまともに聞いてくれなくなったらしいホームズの話を延々とするのだ。
おいやめろ。

まあ、ここまで話しておいてなんだけど私が記憶を思い出したからと言って別に何が変わるわけでもない。
性格だってそのままだし、ただ少し前よりも落ち着いたかな?程度だ。



そう思っていた時期が私にもありました。



切っ掛けはそう、工藤新一が幼馴染である毛利蘭と一緒にトロピカルランドに行ったことから始まる。
はいはいデートね、リア充リア充。
二人で出かけるところに偶然出くわした私は脳内で舌打ちしながらも、表面上は少し困ったような笑顔を浮かべながら『そうなんだ、楽しんできてね』なんて口にする。
そして私はそれ以来工藤新一を見ることはなかった……。
うそうそ、体感時間にしてこれから十ウン年、きっと漫画の中の世界では一年くらいの期間工藤新一は江戸川コナンになる。
その事を思い出したのは二日後の話で、更に言うなら両親に連れられてきたデパート内で適当にぶらぶらしていた私の手を小さな手が掴んだ時のことだ。

突然触れた小さな手の感触に私が驚いて見下ろせば、そこには小さくなった工藤新一……もとい江戸川コナンが大きな目で私をじっと見上げていた。
目を丸くさせる私に江戸川少年は少し慌てたように口を開く。


「お、おねーちゃん!
あのね、僕迷子なんだ……心細いからしばらく一緒にいて……?」


そうして、小さく首を傾げる江戸川少年を見て私は衝撃を受ける。

前世の私はオタクという人種であった。
オタクの中でも、イケショタや合法ショタにぐっとくるタイプのオタクであった。
江戸川少年の中の人が誰だか私は知っている。
知ってはいるけれど、


「いいよ。
大丈夫だった?怖かったね、一緒にお母さん探そうか?」


あふれ出るパッションを抑えきれなかったのだ。
その時の私は今まで工藤新一に見せたことがないほどの満面の笑みだったと思う。
その証拠に江戸川少年は私の表情を見てぽかんとしていたし、聞こえるか聞こえないかという声量でもらした『普通の笑顔だ……』という言葉を聞き逃さなかった。

江戸川少年が何を思って私に接触してきたのかはわからない。
わからないけれど、何も知らない私が期間限定半合法ショタを愛でてもきっと罰はあたらないだろう。


それ以来工藤新一の時と同じくらいの頻度で何かと声をかけてくる江戸川少年に、にこやかな笑顔と共に殊更優しく対応した。
その度になんとも言えない微妙な顔をされているような気がするけどきっと気のせい気のせい!
私の転生トリップ生活はまだはじまったばかりなのだ!!
合法ショタはいいぞ!!