翔太くんと喧嘩 @
その日はたまたま二人きりでレッスン場にいて、私が練習してる間も翔太くんはスマホとにらめっこしてた。翔太くんは私より振り覚えも早いからこんな練習しなくてもと思ってるのかもしれないけど、それでも、練習したらもっと上手くなるんだからと思ったり……。
「翔太くんさ、練習しないの?」
渡辺「あ? おー」
「じゃあなんでここいんの? ……スマホいじってるだけなら帰れば?」
渡辺「別にいいだろ、そんなん俺の自由だし」
「……てかさ、またSNSに晒されてたよね? 今もその子と連絡取ってんの?」
渡辺「お前何なの?」
「……そんな子と遊ぶのもうやめなよ。翔太くんの為にならないよ」
渡辺「は? なんでそんなことお前に指図されなきゃいけないわけ?」
「指図じゃなくて助言のつもりなんだけど」
渡辺「じゃあ余計なお世話。俺がつるむ奴は俺が決める。お前関係ないじゃん」
「……関係なくはないよ」
渡辺「あ?」
「……同じグループで、デビュー目指してる仲間なんだから、関係なくはない。自分と付き合う子の管理も出来ないんなら下手に変なのと付き合うのやめなって言ってんの、わかんない?」
渡辺「うっせーなマジで。同じグループだろうと俺とお前は他人なんだからそこまで介入してくんなよ! ……マジうぜえ、帰るわ」
「話終わってないんだけど」
渡辺「終わってんだよ。ガキは黙っておべんきょーでもしてろ」
バタンと力強くドアが閉まって部屋が静寂に包まれる。入れ替わりで入ってきたふっかが「翔太出てったけどなんかあったー?」なんて呑気な声で聞いてきて、緊張の糸が解けて涙腺が緩む。
深澤「え、ちょっ、なんで泣くの!? 翔太になんか言われた!?」
「……ごめん。俺、翔太くん、怒らせちゃった」
深澤「……何があったの?」
ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。翔太くんに突っかかってしまったこと、彼を思って紡いだ言葉だとしても、もっと言葉を選べばよかったと後悔したこと、ひどく干渉してしまったこと……。
「……言わなきゃ良かった」
深澤「でも、奏多は翔太のこと案じて言ったんでしょ? 佐久間のときだってそうだったじゃん」
さっくんの女性関係が明るみになって、あることないことSNSで書かれたときにも、私はさっくんに対してあれやこれやと口を出してしまった。挙句の果てに暫く口を聞かなかった。さっくんが頭を下げてくれて、その件は収束したけど、そうじゃなかったら今でもどうなってるか分からない。
……そういうの敏感になっちゃうのは、私が女だからなのか。こういうことは本人たちの自由だと思ってもやっぱり嫌だと思ってしまう。アイドルだから恋愛しない。そんなことを求めてるつもりはない。だけど、簡単にネットに晒してしまうような相手と付き合うのはおかしくないかと思ってしまう。
深澤「とりあえず今日は帰ろ。飯でも行く?」
「食欲無い」
深澤「ダメでーす。奏多ほっとくと飯抜くじゃん。なんかちょっとでも食べに行こうよ。ラーメンじゃなくてもいいからさ。何だったら食べられそう?」
「……うどん」
深澤「ん、うどんね。何処がいいかなー。あ、つるとんたんとかどう?」
小さく頷くと「じゃあ行こっか」とふっかに手を引かれた。どうやって連れてかれたかはあんまり覚えてなくて、でもずっとふっかが手握っててくれたのだけは覚えてる。