「あの、離してください」
「いいからいいから。遊ぼうよ。お姉さん可愛いしさ」
コンビニの前で何か揉めている男女。付き合ってる風ではなさそう。てか女性の方嫌がってるし。素通りすることも出来たんだけど、なんか気になって、気付いた時にはその二人の間に入ってた。
岩本「……嫌がってるんで。離してもらっていいですか?」
ぐいと彼女の腕を引き、相手の男を睨みつける。男はただそれだけのことで一目散に逃げていき、俺の腕の中にいる彼女だけがぽかんとしていた。
岩本「大丈夫っすか?」
「……あ、え、あ! あ、ありがとう、ございます」
ぱっと離れて頭を下げる彼女。別に気にしなくていいのに。
「……助けてもらって、あの、あれなんですけど」
岩本「ん?」
「……アイドルの方が、あんまりこういう、揉め事に顔突っ込むのは、その、良くないと、思います」
岩本「え?」
あ、この人俺のこと知ってるんだ。ぼんやりと頭の奥でそう考える。黙りこくる俺を見て「え、あ、違いました……? 岩本、照さん、ですよね?」って小さな声で呟く彼女。
岩本「いや、合ってます」
「ですよね。あの、本当にありがとうございました……」
小さく頭を下げて立ち去る彼女。数メートルもしないうちにまた違う男に絡まれてて、またそれを俺が追い払う。
岩本「家、この辺り? 送ってきますよ」
「ちょっと先なんですけど……。あ、でも、その、1人で帰れるので、大丈夫です」
岩本「変な男に絡まれてたじゃん」
「……そう、ですね」
岩本「虫除けがいた方がよくないです?」
何故か彼女のことが気になって、ひとりにはしたくないと思ってしまった。少し躊躇って、でも最後には「お願いします……」と彼女は首を縦に振ってくれた。
岩本「いつも、あんな感じなんすか?」
「……いえ、そんな頻繁には。今日は……たまたまですね」
岩本「へえ」
頻繁にとは言ってないけど、少なくもないんだろうな。伏し目がちになりながらも、ぽつりと言葉を吐く彼女に「大丈夫」と返す。
岩本「今日は俺がいるから」
守りたい。出会って数分でそんな風に思うなんて、一目惚れにも程があると自嘲気味な笑いが込み上げる。
「……あ、家ここです」
岩本「何もなかったっすね」
「岩本さんのおかげです。本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる彼女。セミロングの髪が微かに揺れた。
岩本「じゃ、俺はこれで。お姉さんも早く部屋入ってくださいね」
「はい」
ふにゃりと笑って頷いて彼女はマンションへと入っていった。これで大丈夫。もう会うこともないだろうけど、少しでも彼女の不安が拭えたらいいなって勝手ながら願った。