雨音に沈む

松村「あ、岩本くん」
岩本「北斗? 何?」

少クラの撮影日、声を掛けてきたのは北斗だった。珍しいこともある。

松村「あの、先日はありがとうございました」
岩本「え? 俺なんかしたっけ」

心当たりがなさすぎて首を傾げれば「俺じゃなくて、妹のことなんすけど」と続けられた。

岩本「北斗、妹いるんだ」
松村「はい。んで、妹、名前って言うんですけど、この間、岩本くんに助けられたって言ってて」
岩本「へぇ」
松村「家まで送ってもらったって……、本当にありがとうございます」

頭を下げる北斗に「いいから」と軽く返す。最近俺が家まで送ったのって、あのコンビニで出会った彼女だけなんだけど。その子が北斗の妹だったってこと?

岩本「え、あの人北斗の妹なの?」
松村「はい。……あんま似てないかもですけど」
岩本「暗かったしあんまり顔見てないけど……。そっか、北斗の妹か」
松村「そうですね。それと、これ。名前から岩本くんにって」
岩本「え、まじでいいのに」
松村「絶対渡せって言われたんで」

そう言って引かない北斗。だから有難く頂戴することにした。あ、ここ知ってる。有名なチョコレート専門店じゃん。それに気付いて思わず顔が緩む。

松村「じゃあ、俺はこれで、失礼します。妹が本当にお世話になりました」
岩本「いやいや、ほんといいって。妹さんにも言っといて。チョコありがとうって」
松村「はい!」

北斗と別れ一度楽屋へと向かう。ちら、と紙バックの中を覗けば、一通の手紙が入っていた。
『岩本さんへ』と綺麗な字で書かれているそれはまた後で読もう。今日はもう仕事もないし、荷物だけ持って早々に楽屋を後にした。