「あの、すみません。このDVDBOX探してるんですけど……」
おずおずと声を掛けてきた女性に俺の背筋が伸びた。見せられたスマホの画面には少し前のアニメ作品が載っている。あ、これ俺も見たなぁ。
「あー! これ! 超いいですよね!ちょっとお待ちください! 今、調べてきます!」
光の速さでスタッフオンリーの事務室へと駆け込みパソコンに商品名を打ち込む。あ、あったあった。ってああ! 品切れじゃん。あー……取り寄せ、出来るかなぁ……。
「……あの、お待たせしましたぁ」
「あ、はい。すみません、お忙しいところ……!」
「いえいえ、全然! でも、すみません! あのDVDBOX、当店ではもう品切れみたいで……! 取り寄せも、ちょっと、出来るかどうか、やってみないと分かんないんですよね……」
事実をはっきりと伝えると彼女はしゅんと眉を下げた。つられて俺もしゅんとしてしまう。
「そうなんですね、すみません。ありがとうございます。……あの、取り寄せ出来るかどうかだけ、やってもらってもいいですか?」
「了解しました! んじゃあ、ちょっと紙書いてもらいたいんで、カウンターまでいいですか?」
カウンターまで彼女を誘導し、連絡先なんかを紙に書いてもらう。大体1週間くらいしたら取り寄せ出来るかどうか分かるって話をして、また連絡するよって伝えた。その日、彼女はそのまま帰ってったけど、俺は彼女のことが頭から離れなかった。取り寄せ、出来るといいなあ。
***
数日経って、事務用のパソコンに一通のメールが入った。
「うわ! あー……」
メールの内容は、こないだのDVDBOXの取り寄せの件。結果は……ダメ、だった。申し訳なさ全開で彼女に電話をかける。数コールのうちに、彼女の声が響いた。
「はい、苗字です」
「あ、アニメイト秋葉原店の佐久間大介です!」
「あ、もしかして取り寄せの……」
「そうです! あの実は……取り寄せ、出来ませんでした……! 申し訳ございません!」
「……そうだったんですね。今頃になって手出したからかな。分かりました、ありがとうございます」
少し寂しそうな声に胸がキュンと締め付けられた。このまま電話を切るなんて出来なくて「あの!」とつい声を発していた。
「あの、俺、私物なんですけど、このDVDBOX持ってて、良かったらその、貸しましょうか?」
「……え、えっ!? いいんですか!?」
「はい!」
誰でもいいってわけじゃない。あの人だから、貸してあげたいって思ったんだ。そこからは早くて、貸す日と場所を決めて、落ち合うことにした。
「あ、苗字さん!」
「店員さん、ありがとうございます……!」
「んふ、いえいえ。あ、店員じゃなくて、佐久間大介って言います!」
「佐久間さん。ほんと、ありがとうございます……!」
「いや、俺もこれ超好きで! ぜひ見たら感想教えてほしいです!」
ネタバレしないように言葉を選んで話す。苗字さんがどのくらい分かってるかも、その時に初めて知った。まだ彼女がこの作品と出会ったばかりだってこと。同じ作者の前作を見て、この作品にたどり着いたこと。とにかくアニメが好きな俺とは違って、興味があるものをピックアップして見ている彼女とも少しだけ趣味が合うことに気付いて凄く胸が弾んだ。
「良かったら、またこうして会ってくれませんか?」
そう切り出したのは彼女の方だった。アニメの話をする人が周りにいないらしい。俺は二つ返事で了承して彼女のLINEをちゃっかりゲットした。
恋の第一歩。踏み出したばかりのそれは仄かに甘いいちごミルクの飴みたいだった。