付き合い始めたからと言って、俺と彼女の生活が変わることはあまりなかった。ただ少しLINEの回数が増えたのと、電話の回数が増えたのと「会いたい」って言葉一つで会いに行く頻度が増えたくらい。
外でデートすることはほとんど無くて、暗い時間に海行ったりドライブするくらいで、家で会うことの方が多い。
岩本「名前こっち来て」
「ん」
膝をぽんと叩くと素直にそこに腰掛けてくれる彼女。今日の彼女の部屋着はTシャツにショートパンツとラフで可愛いんだけど、同時に心配になる。
岩本「短くない? これ」
「最近暑いからね」
岩本「これで宅配便とか受け取りに行ってないよね?」
「行ってないよ。そういうの、ひーくん嫌いでしょ?」
岩本「うん」
「だから大丈夫」
半年もすれば少しはお互いのこと分かるようになって、彼女は簡単に俺の性質を理解していたように思う。嫉妬しいの俺のことを「可愛い」と言って「大好きだよ」と伝えてくれる。家では脚の出る格好をするのに、外で会う時は絶対にスカートを履かないし肌見せも極力少なくしてくれる。
今だって俺の首に腕をまわしてぎゅっと抱きついてくれる。それが可愛くて愛おしくて、顔をくしゃくしゃに緩ませながら「大好き」と呟く。
「今日泊まってく……?」
岩本「ん。泊まってく。……てか、俺もこの家住みたい」
「それはさすがにダメ」
岩本「なんで?」
「ここ、大したセキュリティあるわけでもないし……。ひーくんに何かあったら、嫌だから」
岩本「……じゃあ、俺と同棲するってのは、嫌じゃない?」
「うん。私だって、ひーくんと一緒にいたいもん」
岩本「ふふ、超嬉しい」
ありがとうの代わりにキスをひとつ落として言葉を紡ぐ。次の名前のマンションの契約更新のタイミングで同棲を始めたいってこと、言葉にしたら現実味が増して、気持ちが浮き足立った。
岩本「それと、これ」
ずっとポケットに入れていた小さな箱を彼女に渡す。
「……何これ?」
岩本「開けてみて」
言われるがまま、彼女はその箱を開く。中にはシルバーのリングが2つ。1つは俺ので、もう1つは名前の。
「これ、えっ……」
岩本「俺が死ぬ時に、一番近くに名前にいてほしい」
くしゃりと彼女の顔が歪む。大粒の涙が目尻からこぼれて、俺の服を濡らしていく。
岩本「結婚しよう」
「……ん、はい。不束者、ですが、よろしく、お願いしますっ」
服の裾で涙を拭う彼女に「目、赤くなるから」と触れるだけのキスを送る。
岩本「愛してる」
たった五文字で構成されたかけがえのない強い想いを唇に乗せて彼女へと贈る。同じように応えてくれる彼女を抱き寄せてふたりベッドに沈んだ。