チャラすぎる保育士さん

ちょっと買い物がしたくてショッピングモールへと足を運んだ。休日ということもあり、人でごった返しているその場で、何処から行こうかなんて考えていると不意に私の服の裾を誰かが掴んだ。

「ママ……?」
「え?」
「ママ……じゃなぁい……」

私がママじゃないと認識した瞬間、ぶわっと大粒の涙を浮かべて泣き出してしまった女の子。

「大丈夫?」

……じゃなくて、えっと、こういう時ってどうすればいいんだっけ。焦りが先行して上手く言葉が出てこない。学校で習ったことが何の役にも立たなくて、思わず眉を下げてしまう。ああ、どうしよう。

「どーしたぁ? お母さんと離れた?」
「……ママぁ」

私と女の子との間にすっと入ってきたのは見ず知らずのお兄さんだった。ちょっとチャラそう……。そんな見た目に反して彼は泣いてる彼女と目線を合わせて、軽く言葉を交わしていた。

「俺とお母さん探そ。大丈夫、絶対見つかるし、お母さんも君のこと探してるからね〜」

そう言って彼はひょいと女の子を抱きかかえた。どうしたらいいか分からなくて私も彼らについてお母さんを探すこととした。

「あ! ママぁ!」

数十分もしないうちにお母さんが見つかり、女の子はお母さんの元へと駆けていった。

「あ、ありがとうございました……! 私、1人じゃきっと、こんな早くお母さん見つけられなかった……」
「んー、いいっていいって。君も、あの子のお母さん探すの、手伝ってくれてあんがとね」

ぽんぽんと何気なく私の頭を撫でる彼。ぽっと頬が熱くなったのを隠しながら、彼を見れば「ん?」と考えた後に「あ、ごめんごめん」と笑っていた。

「いやー、ダメだね。職業病。ついついやっちゃうんだよね」
「職業病……」
「あー、俺、保育士なんだ。んで、ちいちゃい子あやす時とか、褒める時とかに、ぽんぽんってしちゃうの」

保育士さんなんだ……。ちょっとチャラそう、なんて思ったのが申し訳なく思えてきた。この人みたいな、子供のこと最優先ですぐ行動できるような保育士さんになりたいな。静かにそう願い、彼と別れた。


***


「実習生の苗字名前です。本日からよろしくお願い致します!」
「はい、よろしくね」

課外学習の一環として、私は近隣の保育園に来ていた。今日から2週間、実習生として現場で知識と判断力を身につけていくこととなる。

「他の先生方も紹介するから、ついてきてください」
「はい!」

園長先生の後に続き職員室へと向かった。最初が肝心だからと元気に挨拶しようと思ったのにそれすらも吹っ飛んでしまったのは、あの日迷子の女の子とお母さんを探してくれたあの男の人がいたからだ。

「あれ、どっかで見たことあるような……」
「深澤先生、紹介しますね。実習生の苗字さんです。苗字さん、分からないことがあったら彼になんでも聞いて」
「あ、は、はい!」
「よろしくねぇ〜。俺、深澤辰哉。子供たちからはたつや先生なんて呼ばれてんだぁ」
「よろしく、お願いします……!」

ふにゃりとした笑顔があの日の彼と重なって、頭を撫でられたときのことを思い出して胸がきゅんとなった。

「そんな固くなんなくて大丈夫だよ。あ、名前、なんていうの?」
「苗字名前です!」
「名前ちゃんね〜」
「……あの、先日は、ありがとうございました……!」
「え? ……あ! あー、もしかして、迷子ちゃんと一緒にいた子?」
「あ、はい!」

そっかそっか〜と頷く彼の横顔をじっと見ていると、不意に彼の顔がこちらを向いた。

「んふふ、また会えて嬉しいなぁ。あ、あとでLINE交換してくんない?」

やっぱりチャラい。くすくす笑いながら「いいですよ」と答えれば「あんがとねぇ」とこないだみたいに彼は私の頭を撫でた。
恋に落ちる音が聞こえた。嘘みたいな本当が私の身に起こることになるなんて。