甘い声のケーキ屋さん

「いらっしゃいませ」

職場からの帰り道、いつものお店へと立ち寄る。そこは小さなケーキ屋さんで、可愛らしいケーキがショーケースの中で所狭しと並んでいる、私にとってたまらなく幸せな空間だ。
数週間に一度、私が私のために決めた特別な日。頑張ってお仕事をしたことへのご褒美を与えても許される日。ってことでケーキ屋さんに寄ったんだけど、どれも可愛くて目移りしてしまう。

「今日はこちらのザッハトルテがオススメです」
「ザッハトルテ……! じゃあそれ1つと、ショートケーキ1つお願いします」
「ありがとうございます」

会計を済ませ帰路へと着く。普段より浮き足立っていたのは言うまでもない。
ケーキを冷蔵庫に仕舞おうとして、ふと小さな紙袋が入ってることに気付いた。見れば、そこにはクッキーの小袋と小さなメモ用紙がひとつ。

『いつもお仕事お疲れ様です。甘いものがお好きなようなので、ぜひ召し上がっていただけると嬉しいです。』

末尾に書いてある『宮舘涼太』というのがおそらく彼の名前だろう。電話番号も書いてある……。直接お礼言った方がいいよね……?
ケーキに舌鼓をうち、クッキーにも手を伸ばす。いつもケーキ買ってたけど今度からはクッキーも買っちゃおうかなと心に決めた。

「……よし、電話しよ」

少し遅くなったけど意を決して電話をかける。数コールの後に、あの落ち着いた低音が耳元で響いた。

「はい、宮舘です」
「あ、えっと今日お店に伺った苗字と申します」
「はい。……あ! いつもありがとうございます。クッキー、食べてもらえました?」
「はい! ありがとうございます! すっごく美味しかったです」
「良かった。わざわざ電話までいただいてありがとうございます」
「いえいえこちらこそ……! あの、またケーキ買いに行っても大丈夫ですか……?」
「はい。いつでもお待ちしております」

ただのお礼の電話なのに、何故か鼓動が速くなっていくのを感じた。

「またこうして連絡してもいいですか?」

そう切り出したのは彼の方だった。断る理由もなく、二つ返事で受け入れれば「ありがとうございます」と爽やかな声が耳を撫でる。その心地良さに思わず顔が綻んだ。
貴方の作るケーキと同じくらい貴方のことが好きになるなんて、この時はまだ思いもよらなかった。