大人になった友達の弟くん

帰宅ラッシュの波に揉まれ、ようやく辿り着いた最寄り駅。ふらふらと改札を抜けて歩いていくと少しして、とんと肩を叩かれた。

「名前ちゃん?」
「……え、あ、ラウくん?」
「うん、久しぶり」
「久しぶり! わー! 大きくなったね!」

イヤホンを外して彼の方へと体ごと向き直る。彼がふわりと柔くはにかむものだから、私もつられて笑みを浮かべてしまう。

「ラウくんに会うの何年ぶりだろ?」
「5年かなあ。まだ名前ちゃん高校生だったもん」
「うわ……、そのときラウくん中1とかだったよね。あんなちっちゃかったのに……え、今18?」
「そ。しかもね、今日誕生日」
「ええ!? うそ、おめでと!」
「知らなかった?」
「……うん、ごめん!」
「兄ちゃん言ってなかった?」
「聞いてない! 毎日会ってるのにアイツ……」

ラウくんの兄は私の中学からの友人で、大学から果ては勤務先まで一緒になった腐れ縁だ。部署は違うけど顔を合わせることもかなり多いのに、そんなことも教えてくれないなんて。ラウくんだって私の弟みたいなものなのに。てかアイツ今日も何食わぬ顔で仕事してたな……。

「そっかー……」
「どうてもいい話ばっかりしてるよ。もー、ラウくんの誕生日って知ってたらプレゼントとか買ったのに!」
「ふふ、ありがとう。気持ちだけでも嬉しい」
「ほんと? あ、今度アイツに会った時にプレゼント渡しとくね!」
「本当? ありがとう」

くしゃと笑う彼の笑顔は太陽みたいで少し眩しい。これが若さか、なんて思うほど。

「俺、兄ちゃんが羨ましいなぁ」
「え? なんで?」

突然の言葉に目が点になる。首を傾げて尋ねればラウくんは覗き込むようにして私を見て笑った。

「えー、ふふ。名前ちゃんとぉ、ずっと一緒にいれるから」
「えー、嬉しいなぁ」
「俺ね、名前ちゃんのこと、好きなんだ」

突然の言葉に足を止める。半歩先でラウくんも立ち止まって振り返った。三日月形に歪んだ目が私を捕らえて離さない。

「ふふ、驚かせちゃった?」
「……驚くよ! もう。大人をからかっちゃダメでしょ」

顔に熱が上がるのを隠すように彼の前を歩けば「待って」と腕を掴まれ、後ろから彼に抱きしめられる。

「俺、本気だよ。本気で名前ちゃんが好き。……それとも、俺のことは弟みたいにしか見れない?」

振り向けば、潤んだ瞳で私を見つめる彼の姿があって、またつい目を逸らしてしまう。

「……名前ちゃん、こっち見て」

耳元で甘く強請る低音が響く。言われた通り振り向けば、嬉しそうに彼は笑っていた。

「顔真っ赤。俺の事、少しは意識してくれた……?」

くたりと妖艶な笑みを浮かべた彼の顔が近づく。

「いつまでも子供だと思わないでね」

耳朶に柔らかい何かが触れた。それが彼の唇だと気付いた頃にはもう遅い。「好きだよ」と呟いて彼は私の唇を奪っていった。