数日後、マネージャーから「雑誌出来ました」と先日の雑誌をいただいた。おお、凄い。ちゃんと表紙になってる。これが店頭に並ぶと思うと胸が高鳴った。
向井「だてさん何見とんの〜?」
後ろからひょっこり顔を出してきた康二。「今度の雑誌のやつ? 俺も見たい!」なんて言いながら俺の横に座って、雑誌に視線を向ける。パラパラとページを捲る中で康二が急に「ちょっと待って」と呟いた。
宮舘「何?」
向井「これ、撮影名前やったん?」
宮舘「え? 愛称さんでしょ?」
向井「あ、そうやった。愛称、愛称」
仲良いのかな。そんな疑問が康二にも伝わったらしい。くしゃりと笑って「俺の妹やねん」と呟いた。
たしかに……。言われてはっとした。康二の照れ笑いと、彼女のくしゃりとした笑い方があまりにも似てたから。……ということは、嬉々として語っていた"おにぃ"の話って、もしかして康二のことかな。
向井「あ、名前っての、あいつの本名な」
けらけらと笑いながらそう教えてくれた。名前さん、っていうんだ。
向井「めっちゃええ写真撮るよな。俺、名前の撮ったやつ好きやねん」
宮舘「ふはっ」
向井「何笑っとんねん! 笑うとこなかったやろ!?」
宮舘「いや、めっちゃええ写真のイントネーションがまんま愛称さんだったから」
向井「そんなに!? 俺らあんま似てへんって言われるんやけどな……。あ! だてさん、今度飯いこ。名前も誘って」
宮舘「え? 俺はいいけど、愛称さんはいいの?」
向井「嫌やったら断るやろ。俺が会いたいし」
そう言ってすぐに康二は愛称さんへ電話をかけ始めた。え、LINEとかじゃないんだ。というか、忙しい身だろうに、出るのかな。
「康ちゃんどうしたん?」
仕事中の彼女というよりは、撮影前にお話した時の彼女の声に近いそれに、不思議と胸が高鳴った。
ところで、カメラをオンにして通話するのは向井家では当たり前なのかな。
向井「名前、だてさんと撮影しとったんなんで黙っとったん!!」
「え、聞かれんかったから」
向井「なんでそんな冷たいん?! あ、ほんでな、近いうちだてさんと飯行こうって言ってたんやけど名前もこーへん?」
「ええの?」
向井「ええよ! なあ!」
宮舘「え、あ、うん」
急に話しかけられてびっくりした。画面の向こうで「宮舘さんめっちゃきょどっとるやん! 康ちゃんが変なこと言うから!」って愛称さんが笑った。
向井「え!? さっきいい言うてたやん」
宮舘「いや、うん、ぜひ。ご一緒出来たら嬉しいです」
「本当ですか……! いつでもどこでもすぐ行きます!」
向井「調子よすぎやろ。んでいつにする?」
「いつでもいいよ」
向井「なら今日?」
「急すぎない? 私はいいけど、宮舘さんは?」
宮舘「大丈夫です!」
向井「ほな決まり! 場所、あとでLINEするわ」
「はーい」
急な話だったけど、彼女に会えるのは嬉しい。康二と一緒に俺も店選びに協力して、仕事をしっかり終わらせて2人で店へと向かう。
「あ、お疲れ様〜」
向井「うぉお! もうおるやん!」
「そりゃおるよ。急いで仕事終わらせてきたもん。宮舘さんもお疲れ様です」
宮舘「お疲れ様です。雑誌見ました」
「届きました? ふふ、あれ私のお気に入りです」
向井「俺も見た! めっちゃよかった!」
「ありがと、嬉しい」
初対面の人には人見知りしてしまう康二と初対面でも全く人見知りしない愛称さん。兄妹で積もる話でもあるのかと思いきや、ほとんど毎晩テレビ電話してるって聞いて仲の良さに驚いた。そしたら愛称さんは「康ちゃんが寂しがり屋さんなだけですよ」と笑っていた。
他愛もない話で終わり、そろそろお開きかなんて思い始めた頃、康二がトイレに行くと席を立った。その後ろ姿を見送ってから愛称さんは「あの、宮舘さん」と声を掛けてきた。
「今日はありがとうございました。康ちゃんが無理言って連れてきたんですよね、きっと」
宮舘「いいえ。俺は俺の意思でここにいます」
「……ふふ、あははっ。宮舘さんって面白いですよね」
宮舘「そうですか?」
「はい。とても」
宮舘「ありがとうございます」
そこで言葉が途切れる。連絡先、今聞かないともう聞く機会なくなるかもしれない。そんな気がして、唇が震えた。
「「あの」」
「あ、ごめんなさい。なんですか?」
宮舘「いや、愛称さんの方こそ……」
「ふふ、宮舘さんが先に言ってください」
宮舘「え? じゃあ、あの、連絡先、教えてくれませんか?」
「えっ」
ぱちぱちと大きな目が瞬く。そしてすぐにくしゃりとした笑みに変わった。
「私も同じこと話そうと思ってました」
宮舘「えっ」
「気が合うんですかね、ふふ」
彼女はくすくす笑いながら「康ちゃんが帰ってくる前に、交換しちゃいましょ」とスマホを差し出してきた。俺も、内心ドキドキしながらスマホを差し出す。連絡先に"向井名前"と刻まれていることにうるさいくらい胸が高鳴った。
「それと、良かったら名前って呼んでください」
宮舘「えっ」
「だめですか?」
宮舘「だめじゃないです」
むしろ、俺もそう呼びたいと思ってたから。「名前さん」と名前を呼べば「はい」ととびきりの笑顔で返事された。
向井「帰ろか」
「うん。あ、お会計」
向井「あー……、もう済ませといたから」
「えっ、でも」
向井「ええのええの。今日急に呼んだんやもん。だてもええからな!」
宮舘「俺まだ何も言ってないんだけど」
向井「なんか言わんかい!」
そう言って康二は先に歩き始める。まあ、今日は康二に奢られておこうかな。お兄ちゃんだしね。妹の前ではかっこつけたい気持ちも分からなくはないから。
宮舘「じゃあ、俺こっちだから」
「宮舘さん、今日は本当にありがとうございました」
宮舘「こちらこそ、ありがとうございました」
「康ちゃんもありがとね」
向井「ええねんええねん」
宮舘「それじゃ、また」
「また、一緒にお仕事しましょうね」
向井「また明日な!」
向井兄妹と別れて帰路へ着く。家に着いてすぐソファに身を沈めて名前さんの連絡先を眺めた。今日のお礼も兼ねて、連絡しようと文面を考える。……また近いうちに会いたい。なんなら今度は二人きりで食事でも行けたらなんてこと考えてしまう。
結局、連絡をしたのはそれから30分経った後。ようやくまとまった文章を送れば、少しして彼女から連絡が返ってきた。
宮舘「ふふ」
連投された文章と可愛らしいスタンプに思わず笑みがこぼれる。「え」と声を洩らしたのは、彼女からの最後の言葉に驚いたから。
『また良ければご飯行きましょうね。今度は康ちゃん抜きで2人で』
社交辞令じゃないことをただただ願った。震える手で返信の言葉を打っていく。また会いたい。早く会いたい。そんな気持ちが前に前に出て急いていることに気付いて一度スマホを置いた。
『ぜひ、喜んで!』
そんな簡単な返事しか出来なかった。これじゃ彼女がもし本気で誘ってくれていたとしても俺の方が社交辞令で返してるみたいな感じになるんじゃないかな。それだけは嫌だな。考えるよりも先に手が動く。気付いたら彼女に電話をかけていた。
「えっと、こんばんは? どうかしました?」
宮舘「あ、お疲れ様です、宮舘です」
「ふふ、知ってます」
宮舘「さっきの返事、社交辞令とかじゃなくて本気なので」
「え? ほんとですか?」
宮舘「本当です」
「え、てかその為に電話してきたんですか?」
宮舘「はい。すみません、遅い時間に」
「……ふふ、あははっ。私、宮舘さんのそういう所、好きです」
宮舘「えっ」
「都合のいい日と苦手な食べ物教えてもらえると嬉しいです。今度は私のオススメ行きましょうね」
宮舘「はい、ぜひ!」
「ふふ、じゃあ……その……、おやすみなさい」
宮舘「あ、おやすみなさい。遅い時間にすみません」
「いいえ、こちらこそ。ありがとうございます。ご飯、楽しみにしてますね」
宮舘「俺も、楽しみにしてます。おやすみなさい。良い夢を」
「おやすみなさい!」
そう言って電話を切ったのに、すぐに都合のいい日を連絡しちゃって。『おやすみって言ったのに笑』と笑われてしまった。たしかに、と俺も笑ってしまった。