約束の日。きっちり仕事を終えて、ドキドキと胸が鳴るのを抑えながら店で待つ。緊張してきた。ちょっと良い和食のお店でディナーってのも、緊張する原因のひとつかも。んでも個室が良かったから。こういう仕事してるしね、お互い。
女将「お連れ様がお見えになられました」
「大介くん、こんばんは」
佐久間「名前、おっちー!」
「遅くなってごめんね……! お疲れ様」
今日の服装も可愛い。ひらひらのスカートが揺れる姿をつい目で追ってしまう。ドキドキが止まらない。俺の向かいにちょこんと座る名前。「緊張するね」と照れ笑いを浮かべていた。
お互い何話していいか分かんなくて、なんだか凄く緊張して、ふとした瞬間に顔を上げたら目が合って、思わず笑ってしまった。ああ、こんなことでも嬉しくなってしまうんだ。恋ってすごい。
「そういえば、前に教えてもらったアニメ見たよ」
佐久間「え! まじ!?」
先に口を開いたのは名前の方だった。最終話まで一気見したらしく暫くその余韻に浸ったらしい。んふふ、その気持ちめっちゃ分かる。
緊張で味もよく分からなかった料理がやっと美味しく感じられるようになってきた。他にもおすすめいっぱいあるから、とまたいろいろ教えると「見てみる!」と全部手帳にメモしてた。
「……大介くん、あの、さぁ」
佐久間「ん?」
「……ううん、ごめん。なんでもないや」
くしゃりと困った顔して笑う名前に「どうした?」と問い掛ける。「俺じゃ、名前の相談、乗れない?」と首を傾げれば「笑わないでね……」と名前が小さく呟いた。
「今度、映画で……、主演に抜擢されたの、ね」
佐久間「ええ!? まじで!? 凄いじゃん! おめでとう!」
「ありがとう。……それでね、その」
そこで言葉が途切れた。名前は頬を真っ赤にして、眉を下げた。
「キスシーン、あるの……」
聞きとるのもやっとなくらいの小さな声で、ぽつりとこぼされた言葉。
「私、恋人とか、いたことないから……、キス、したことなくて……」
ぽぽぽっと赤くなる名前につられて俺の頬も赤く染まる。
「あ、ごめんね! こんな話、お兄ちゃんにも、ママにもパパにも、出来ないから……!」
佐久間「ううん、俺は全然いいけど。……友達は?」
「一般の子に、そんな話できないし、この業界のお友達は、忙しいしで……。ほんと、ごめん。忘れてっ!」
佐久間「……あのさ、名前」
気持ちが先走って少しだけ体も前のめりになった。小さく息を飲んで、名前を見つめた。
佐久間「俺、名前のことが好き」
「……え?」
佐久間「だからその、名前の初めてのキスは、俺にください……!」
名前の顔がいっそう赤く染まる。耳まで真っ赤になってるのは俺も同じ。さすがに急すぎたかな。いやでも今更か。これで振られたらどーしよ。そもそも俺、名前に男として意識されてんのかな……? 急に不安になってきた。
「……え、っと、あの、どうしよっ」
ぱたぱたと自分の手を扇状にして仰ぐ彼女をじっと見つめる。次にくる言葉を待っていると、ぱちりと彼女と目が合った。目尻には少しだけ涙の粒が浮かんでた。
「……わ、たし、も、すき、ですっ」
佐久間「え? え!?」
「……私も、好き。幼なじみの妹だから、それ以上に、なれないんだって、思ってたのに」
ぼろぼろと涙がこぼれる様は映画のワンシーンかと思うほど綺麗で魅入ってしまう。その涙を拭いたくて、彼女の隣へと歩み寄った。
佐久間「……ねぇ、いつから?」
いつから好き……? って野暮な質問。だけど、最近恋に気付いた俺にとっては、名前がいつからそんな風に思ってくれてたのか、気になってしょうがなかった。
「……ずっと前からだよ?」
佐久間「えっ!?」
「初恋、だもん」
消え入りそうな小さな声。だけど俺にはしっかり聞こえたよ。初恋なんだって。んふふ、初恋なんだって!
ぎゅって彼女を抱きしめて「ねぇ、キスしていい?」ってお願いして。りんごみたいに真っ赤になった彼女が愛おしくて、ありったけの思いを詰め込んで、唇を重ねた。