世界が桜色に染まるその日まで

名前の映画の公開が来週に迫った頃、マネージャーが俺のところに詰め寄ってきた。

マネージャー「佐久間さん、確認させてください。女優の京本名前さんと付き合ってますか?」
佐久間「え? あー……、うん。付き合ってる」
マネージャー「記事出てます」
佐久間「えっ!?」

見せられたのは一冊の雑誌。ツーショットは撮られてないものの、熱愛報道! とでかでかと書かれていた。……週1回は俺の部屋に来てるとか、同棲間近とか、その辺は全くの嘘。お互いそんなに暇じゃないし、名前は未だに俺ん家に泊まりに来たことすらない。

マネージャー「この記事、どこまで本当のこと書いてありますか?」
佐久間「え、熱愛ってとこだけ。ほぼほぼ嘘だよ」
マネージャー「分かりました……! 差し止めは出来ないので、副社長と相談の上、改めてご連絡しますね」
佐久間「ん、分かった。ごめん」
マネージャー「いいえ。それが仕事です」

そう言い残してマネージャーは急いでどこかへ行ってしまった。ネットでエゴサしたら、祝福する声もあれば、滅茶苦茶な批判もあって苦しくなった。……名前の映画に、悪い影響出しちゃったかも。LINEを開けば、大勢の人から心配の声が届いていた。彼女のトーク画面を探し当てると、彼女の方が先に俺にLINEしてた。

『話聞いた?』
『うん』
『……ごめんね、たぶん私のせい』

名前のせい? 違う。悪いのはあることないこと書いて他人のプライベートを踏み荒らすマスコミで、名前じゃない。映画もあるし、話題性があると考えたんじゃないかな。

滝沢「佐久間。ちょっと」
佐久間「あ、はい!」
滝沢「記事の件、殆ど嘘なんだって?」
佐久間「そう、ですね。付き合ってるのは事実ですけど……」
滝沢「向こうの事務所と話がついて、プライベートについては個人に任せてるってことにしようってなったよ。佐久間が彼女と話し合って公表したいなら、それも止めない。ただ、お前にこういう記事が出た以上、ファンはお前が計り知れなくらい戸惑ってると思う。話すならうやむやにしないで皆が納得するような説明しろよ」
佐久間「……はい! ありがとうございます!」

それだけ話して滝沢くんは電話をしながらどこかへ行った。スマホに目を向け、彼女に『今電話出来る?』とLINEする。返事より早く着信が入った。

「もしもし」
佐久間「あ、もしもし、名前? 記事のことなんだけど」
「……うん」
佐久間「俺は、名前とのこと、公表したいと思ってる」
「……うん」
佐久間「ちゃんと皆に話して、それで、その上で俺たちを応援してもらいたいって、思ってる。名前は……?」
「……わ、私は、迷ってる。でも、あの記事、殆ど嘘だし、その誤解は、解いておきたい。そのためには、話さないといけない、って、思ってる」

じゃあ、と言おうとしたけど、それを遮るように名前の言葉が続く。

「……でも、不安、だよ。大介くんが、どんなに凄いアイドルか、知ってるから。迷惑になりたくない、重荷になりたくない。なのに、私が足引っ張ってる……」

今にも泣きだしそうな声。もしかしたら、もう泣いてるのかもしれない。震える声を聞いてると、なんで今俺は彼女のそばにいないのかって酷く後悔した。

佐久間「ねえ、名前。……俺、名前のこと、迷惑だなんて、1回も思ったことないよ。俺は名前が好き。大好き。名前が凄い女優だってのも知ってる。足引っ張ってるのは俺かもしんない」
「ちが……っ」
佐久間「……でも、そんなの考えたって分かんないじゃん? だからさ、ひとりで抱え込もうとしないで。俺にも半分わけてよ、名前の不安。ふたりで支え合おうよ。せっかく好き同士で付き合ってるんだから、ね?」

電話越しに聞こえる名前のしゃくり上げる声。泣かせちゃった。抱きしめてあげられないのがもどかしくて苦しくて切なくて……。上手な言葉が出なくて「笑って」とだけ呟いた。

佐久間「名前、笑って。俺、名前の笑った顔が好き」
「……ん、うん。……昔も、同じこと、言ってた」
佐久間「んぇ、まじで?」
「本当。うちで、鬼ごっこしてて……、私転んじゃって、泣いちゃって……。そしたら大介くんが、足遅いのに、お兄ちゃんよりも早く走ってきて……」
佐久間「足遅いのに」
「それ、凄く嬉しかったの。思い出した。……公表、しよっか」
佐久間「え? いいの?」
「ん、いいの」

連名で文書を出すことを取り決め、電話を切った。マネージャーにその旨を伝えれば「分かりました!」と元気な返事が返ってきた。


キャスター「Snow Manの佐久間大介さんと、女優の京本名前さんの熱愛が報じられました件について続報です。たった今、連名でのFAXが送られてきました。読み上げます」