花屋の前を通ると、ふと彼女のことを思い出す。9人の男たちに混ざってパフォーマンスを行う彼女のことを。男装名は俺たちの本物のお姫様だ。その実を知る人はかなり少ないけれど。
「なにかお探しですか」
「あ、いえ。見てるだけです」
佐久間みたいなふわふわの髪をした男の店員さんが声を掛けてくれたが断ってしまった。自宅用にと見て回り目に付いたのは小粒の白い花々だった。
「あの、これって何の花ですか?」
「そちらはイベリスですね。"心を惹きつける"とか"甘い誘惑"なんて花言葉があります」
「これはマーガレット、ですよね? 花言葉は"真実の愛"」
「よくご存知で」
気付けば花についてあれやこれやとその人と話し、マーガレットを使ったブーケを作ってもらった。出来上がりを見て何度も頷き、お礼を述べて店を後にした。
帰宅後、早速部屋に花を飾り、ふとマーガレットの花言葉について思い出した。日本でのマーガレットの花言葉は"真実の愛"。俺が思い出したのは英語圏での花言葉。マーガレットの花言葉は"Secret Love"。俺の男装名への気持ちも今はまだ秘密。伝えるきっかけがあれば……。いや、きっかけなんて、作ってしまえばいい。そう辿り着いたら後はもう行動に移すだけだ。
***
数日経って俺はまた同じ花屋を訪れていた。そして先日お世話になった店員さんに声をかける。
「好きな人に花束を贈りたいんですが、考えるの、手伝ってもらえませんか」
「はい、喜んで。でもその為に、その好きな方とのお話聞かせていただけませんか?」
ぽつりぽつりと話し出す。言葉数は大して多くないけれど、止まらずに、いつまでも。男装名がどういう人間で、どういうところが好きか。
そんな俺の話を聞きながら店員さんは似合の花束を見繕ってくれる。
「頑張ってください。良いお返事が貰えますよう僕も応援しています」
「ありがとうございます」
一世一代の告白になるんだから、それなりの覚悟が必要だ。高鳴る心臓を抑え、さっき作ってもらった花束を持って男装名に会いに行く。彼女は俺に会うなり、大きく目を見開いてパチパチと瞬きをした。
「どうしたの、舘様。すっごい花束持ってるね」
「これは、男装名に。どうしても伝えたいことがあって」
「伝えたいこと?」
「うん。花も、どれにするか迷ったけど、これが一番俺らしいかなって。薔薇の花言葉、知ってる?」
「え? えっと、"愛"だっけ」
「正解。じゃあ101本の薔薇の花言葉は分かる?」
「本数で花言葉変わるの? んー……、なんだろ」
「ヒントは俺の気持ち」
「舘様の気持ち? 情熱的とか?」
「はずれ。正解は……」
口を噤む。ここまできて、今が一番緊張してるかもしれない。不思議そうに見つめる男装名にふと笑みを向け、改めて言葉を紡ぎ出す。
「これ以上ないほどに貴女を愛しています。これが俺の気持ち。……受け取ってくれる?」
差し出した花束と俺の顔を何度も見比べる男装名。少しして、花が咲くみたいに柔く満開を迎えた笑みが俺を捕えた。男装名は小さく首を縦に振って俺の花束を受け取ってくれた。花が揺れる匂いに微かな春の装いを感じると共に、彼女の傍にずっといたいと囁かな願いを乗せ、彼女の頬を手で撫ぜた。
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「名前」
「あれ、涼太くん。どうしたの?」
「今日遅くなるって言ってたでしょ。だから迎えに来たよ」
「んふふ、ありがとう」
「さ、帰ろう。ご飯作っておいたからね」
「楽しみだなぁ、涼太くんのご飯美味しいし。あ、あのさ……手、繋いでもいい?」
「もちろん。お手をどうぞ。俺だけのお姫様」