これまでと、これからと

初めて彼女を見た時の印象は、佐久間くらい小柄で華奢で、本当にこいつ踊れんのか、飛べんのかってそんな感じのことだったと思う。Snow Manは他のJr.に比べてアクロだって多い方だから。ただ、そんな事は杞憂に過ぎなかった。最初こそ上手くいかないこともあったけど、それでも男装名は俺たちの動きに懸命についてきて、自身のスタイルを確立させてきた。

「……あの、岩本くん」
「何?」

たどたどしい言葉で初めて俺に意見を出したときのことだって、昨日のことみたいに覚えてる。あの頃まだ男装名は15で俺は19で。子供の頃の年の差って今と比べるとけっこう大きく感じることがあるから男装名からしたら大人に意見するみたいで緊張したんじゃないかって今更ながらに思ったり。

「照くん。ここなんだけど……」
「うん?」

いつからか男装名は俺を名前で呼ぶようになった。まあ、名前で呼ばれるようになったのは俺だけじゃなかったけど。少しずつ距離が縮まって、飯行ったり買い物行ったりもするようになって、2人でドライブとかもするようになって。弟と接してるときみたいな感じで過ごしてるのに、ふとした瞬間瞬間で妹と接してるときみたいな気分にもなって、正直不思議だった。

「男装名、今日頑張りすぎじゃない? ほら休憩」
「ん、はい」

ぽんぽんと軽く頭を撫でれば、男装名は年相応の笑みを浮かべて休憩をとりに行った。暫くして戻ってきたと思ったら「照くんも、良かったらどうぞ」と俺にチョコを差し出してきたこともあったっけ。

「ありがと」

たったそれだけなのに男装名はぱっと明るい表情になる。そして俺も、たったそれだけのことに不覚にもきゅんとしてしまった。今思えば、男装名に対する特別な感情が芽生え出したのはそれが始まりだったんだと思う。そして、男装名が女だと気付いた今、それは確信へと変わっていった。

「好き。俺と付き合ってほしい」

枕に向かってそう呟いても返事なんてもらえない。恋煩いって言葉がこんなにも自分の身に降り注ぐ日が来るとは思ってもいなかった。伸ばした手で力いっぱい枕を抱く。本物には敵わないと思いながら。

「会いたい」

明日になればまた仕事で会うんだけど。それとこれとは別で。モヤモヤして眠れない夜を過ごす。……うん、走りに行こう。

体動かしたらちょっとは気が紛れるかと思ったんだけど、やっぱり俺の頭ん中は男装名への纏まらない想いでいっぱいになっていた。

「あれ? 照くん、何してんの?」

立ち止まった先で首を傾げていたのは、今の今まで想っていた彼女で。俺も思わず「なんで」と声を漏らしてしまう。

「なんでって、ここ俺ん家の近所だし」
「え、そうなの!?」
「うん。今もコンビニ帰り」

ん、と見せられた袋には飲み物やらお菓子やらが入ってた。てか、こんなとこで会うなんて、運命なんじゃないかって都合のいいこと考えてみたりする。告白、しようかな。いや、さすがにこんな汗臭い状態で言うのもな。変なとこで乙女っぽい感情が出てきて笑っちゃう。

「これ、照くん用。あ、でも走るのに邪魔になるかな」

チョコのパッケージを見つめながら悩む男装名に「んー、貰ってく」とだけ返す。差し出されたチョコを受け取り、ふと小さく息をこぼす。

「あー……」
「ん? どうかした?」
「あ、いや。あのさ……今度、海行かない?」
「海?」

突然のことで驚く男装名。俺も、突拍子のないこと言ってるなって自覚はある。

「2人でドライブ。最近してないから、息抜きがてら」
「いいね。行きたい」

ふにゃと笑う男装名につられて俺も笑みを浮かべる。
彼女を家まで送り届け「じゃ……、また明日」と告げる。ちょっとだけ寂しいなんて気取られないようにすぐに背を向けた。刹那、服の裾が掴まれる。

「あ、ごめん。いや、あの、えっと……」

珍しく口ごもる男装名。

「……えっと、ごめん、なんでもない。おやすみなさい」

なんでもない顔じゃないけど。どうしたらいいか分かんなくて思いきり男装名を抱き寄せた。誰に見られるか分かんないけど、夜中だし大丈夫でしょ。

「おやすみ、男装名」

俺もたいしたこと言えなくて、何度か彼女の頭をぽんぽんと撫でて帰路へ着いた。




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「海、綺麗だね」
「だね。……あのさ、男装名」
「ん? 何?」
「好き。ずっと前から」
「本気……?」
「本気。てかこんなの冗談じゃ言わないから。男装名これからを俺にください」
「……はい、喜んで。お願いします」
「良かったぁ…。男装名、もっとこっち来て。ん、つかまえた。大好き」