愛を刻む

3人で食事に行ってから数日が経つ。名前ちゃんからは何も連絡がない。……告白すんの早すぎた?
悶々と考えてても答えは出なくて、突っ伏して目を瞑る。少ししてスタッフさんが「目黒さん、お願いします」と声掛けてくれたのをきっかけに気持ちを切り替えた。

スタッフ「お疲れ様でした〜」
目黒「お疲れ様です」

撮影を終え楽屋へと戻る。スマホに通知が来てるのに気付いて確認すると、名前ちゃんからLINEが届いていた。

『目黒くん、先日はありがとうございました! すぐに連絡できなくてごめんなさい。お時間ある時に少しお話したいです。電話でも大丈夫なので……!』

ああ、俺振られるな。直感的にそう思った。
すぐに返事して帰路へ着く。足取りは重いけどでも、時々軽く走ったり早足になったりして、なんだか気持ちが落ち着かなかった。

『もう家だから、電話いつでも大丈夫』

そんな連絡をして数分後、すぐに電話がかかってきた。

目黒「もしもし」
「あ、もしもし! 阿部です」
目黒「ん、知ってる。それ癖?」
「え? うーん、気にしたことなかった。あ、そうじゃなくてね、その、話なんだけど」
目黒「……うん」

ふう、と息を吐く声が聞こえる。少し間をあけて、彼女が「あのね」と話し始めた。

「……この数日間、ね。目黒くんのこと、ずっと考えてた」
目黒「えっ」
「初めて、会った時からのこと、たくさん。お仕事中は、大丈夫なんだけど、それ以外のとき、ずっと、ほんとずっと。……あ、ごめん。この言い方だとなんか、変な人みたい、だよね」
目黒「いや、そんなことないよ」
「ありがとう。それでね、その……、私、も、目黒くんのこと、好き、です」
目黒「え!? まじ!?」

つい声がでかくなる。電話越しの名前ちゃんはその声に驚いたのか小さく悲鳴を上げていた。ごめん。ほんとごめん。

目黒「ごめん、嬉しすぎた」
「ん、ちょっと、びっくりした」

照れ笑いを浮かべる彼女に今すぐ会いたくて抱きしめてキスしたくて、それが出来ないことにすごくもどかしさを感じた。

目黒「やべー……今すげー会いたい」
「……私も。でも、外じゃ会えないから」
目黒「ん、そうだね」

どれだけ普通に恋をしたって俺たちは普通のカップルにはなれない。外では会わない。仕事中も挨拶程度で留める。匂わせはしない。それらしい事は一切周囲に洩らさない。

目黒「阿部ちゃんには言ってもいい?」
「うん。それは大丈夫。また3人でご飯行きたい……!」
目黒「分かった。また予約しとく」

暫くは仕事でばたばたしてるから、それが明けたらって約束をして。

目黒「……家は? 家行くのはだめ?」
「……目黒くんのお家って、外からは見えないようになってる?」
目黒「あー……ううん、フロントに人はいるけど」
「じゃあ、ごめんだけど目黒くんのお家は行けない」
目黒「ん、分かった」

制約ばかりで苦しくはあるけど、お互いにアイドルだから仕方ない。ファンがいてこその俺らだから。

「あとで、家の場所送るね」
目黒「え?」
「私の家。……余計なお世話だった?」
目黒「ううん。え、行っていいの?」
「うん。……私だって目黒くんに会いたいもん。来てもらうばっかりに、なっちゃうかもだけど」

それは全然。俺からしたらどうでもいいってか気にしないことで。むしろ俺の家がだめって断られた瞬間に、彼女の家に行くこともだめなんじゃないかって思ってたから嬉しすぎてやばい。

目黒「今から行ってもいい?」
「えっ。……ん、分かった。待ってるね」
目黒「じゃあ、一旦切るね」
「ん、後でね」

そんな言葉がくすぐったくて、早く彼女に会いたくて、電話切ってすぐアウター羽織って家を出た。車に乗り込んで彼女から送られてきた住所をナビに登録する。夜の街を運転するなんて久しぶりかもしれない。たまに自分の車で仕事行くこともあるけど、最近はずっとマネージャーさんの車だったし。
住所と一緒に教えてもらった場所に車を停め、そのままマンションへと入っていく。地下駐車場から直通で、そのままエレベーターで彼女の部屋の階まで向かった。
ドキドキしながら部屋の前でピンポンを鳴らせば、鍵が開く音が聞こえた。

「いらっしゃい」

ちょっとだけ顔を出してすぐ引っ込める彼女。手招きされてすぐ部屋に入る。

目黒「……抱きしめていい?」
「急、だね」
目黒「ずっと、したかったから」
「……ハグ、だけで、いいの?」
目黒「それずるい」

ぎゅって強く抱きしめて、唇を重ねる。好き。すげー好き。長い1回を終えて、矢継ぎ早に次のキスを始める。俺の服の裾を掴んでた名前ちゃんの手をとって自分の手に絡めたら、ぎゅってされて、それだけで心臓が跳ねる。

「……中、入ろ?」
目黒「あ。お邪魔します」
「ふふ、どうぞ」

手は繋いだまま、リビングまで行ってお互いソファに腰かける。

目黒「名前ちゃん」
「ん?」
目黒「俺と付き合ってください」
「え、あ。……はい。不束者ですが、よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げられ、俺も同じように頭を下げた。不束者って言い回し、なんだか結婚の挨拶みたいで緊張した。
もう一度触れるだけのキスをして、お互い顔を見合わせて笑った。

目黒「好き」
「……私も」

耳まで真っ赤にして、はにかむ彼女。可愛すぎ。結局1時間くらいイチャイチャして帰った。抱きしめた時に匂いが移ったのか自分から少しだけ彼女の匂いがして、どうしようもなく好きな気持ちが溢れた。