雨のち恋

いつからだろう、その横顔を異性として意識し始めたのは。仲間で、弟妹で、友達で……、特別近いわけではないけれど、誰にも言い表すことの出来ない特別な関係だと思ってる。それなのに、気付いたら恋慕の対象にもなっていた。

「阿部ちゃん? どうかした?」
「ううん、なんでもない」
「そう? ならいいけど。俺の顔になんかついてんのかと思った」
「ふふ、大丈夫。何もついてないよ」

学生の頃は「勉強教えて」とすぐに俺を頼っていた男装名。あの頃は、片想い相手というよりは本当に弟妹に近い感覚で接していた。
……男装名が大学生になった頃から、かな。少しずつ意識が変わっていった。目に見えて男装名が綺麗になっていったってのもあると思うけど。
よくよく思い出すと俺の視線の先にはいつも男装名がいたような……。今になって気付くなんて、俺もどんだけ鈍いんだか分からない。

「帰ろっか」

自然に言えたかな? 変になってなかったかな? って、学生みたいな擽ったさが胸を襲う。外に出て彼女が小さく声を漏らす。

「あ。傘、持ってきてないや……」
「ふふ、俺持ってるよ」

折りたたみ傘、入れといてよかった。パッと開いたそれを男装名へと差し出す。

「入れてくれるの?」
「うん。むしろ、使って」
「ありがとう。じゃあはんぶんこね」

ひとつの傘に二人で身を寄せあう。男装名と肩が触れ合うくらいの近さで並ぶのって私生活でも仕事でもあんまりないかも。……うわぁ、なんか変に意識しちゃう。心臓の音が男装名まで届いてたらどうしよう。俺が男装名のこと好きってバレちゃうね。

「阿部ちゃん濡れてない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。男装名の方こそ、もっとこっちおいで」
「ん。……ふふ、なんか照れる」
「本当? 俺も。ちょっと緊張してる」

そう返すと男装名は、くすと笑った。その笑みを見て、たった二文字の愛の言葉が頭をよぎる。

「好き」
「え?」
「……ううん、なんでもない。あ、雨止んだよ」
「本当だ。通り雨だったんだね」

雨が明け、雲が散り散りになっていく。月明かりが微かに街を照らす中で、彼女だけがまた一層輝いて見えて。恋ってこんなにも人を変えてしまうのかと苦笑してしまう。

「……あのさ、男装名」
「何?」
「俺、男装名に言ってなかったことあるんだよね」

軽く首を傾げ、じっと俺を見つめる彼女。俺、急に何言おうとしてるんだろ。……いや、でもいつか伝えたいとは思ってたし。どうしても、今、伝えたくなってしまったから。


「……好きです。俺と、付き合ってください」




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「なんか緊張してきた」
「なんで?」
「だって、明日から2人で暮らすんだよ」
「ふふ、それで緊張してるの?」
「そう。ドキドキしてる」
「大丈夫だよ。俺と名前なら、ね?」
「ん、そうだね」
「嬉しいことも辛いことも全部2人で分け合っていこう」