誘われたのは前にふっかさんと行ったお店やった。俺が行った時には既に名前さんがおって、俺を見るやいなや、ぺこりと頭を下げた。
「急に呼び出してすみません」
向井「え、いや、大丈夫、です、けど」
めっちゃガチガチ。なんなの、俺。しっかりしや! パンッ! と太ももを叩いて彼女の向かいに座る。
向井「なんで、俺のこと、誘ってくれたん……?」
「気になったからです」
向井「気になる?」
「自分からキスしてきたのに、あんな困った顔されたら、嫌でも頭に残るでしょ?」
向井「……その節は、本当にすみませんでした」
テーブルに頭がつくくらい深く頭を下げると、名前さんは「気にしてませんよ」と笑った。
「キスしたこと、後悔しました?」
いたずらっ子みたいな顔して、そんな話聞いてくんのずるい。意識してなくても意識させられるような感じ。いや俺はめっちゃ意識しまくっとんのやけどな。
向井「……なんとも言われへん。やらかしたとは思ったし、後悔もちょっとしたけど、でも、好きな子やから嫌とかはないし……」
「優しいんですね、向井さんって」
向井「そんなことないよ。名前さんやから、優しくしたくなるってか……でも優しく出来てないと思うけど……」
「優しいですよ、たぶん。なんていうか、素直? 普通は言葉濁したり誤魔化したりするんですよ」
向井「だって、好きな子に嘘とかつきたくないやん」
「そういうところ。優しい」
ふわりと笑う名前さん。魅入られてしまいそうで、ぱっと目を逸らした。5秒見つめたら最後、キスしたなるもん。
「さっきから気になってたんですけど、好きな子好きな子って、私のどこが好きなんですか?」
向井「どこって……。恥ずいやん、言われへんよ」
「えっちな話?」
向井「ちゃうよ! そんなんとちゃう!」
うるさいくらい鳴り響く心臓を抑えて、言葉を探す。口をぱくぱくさせてたら「金魚みたい」って笑われた。
向井「……最初は、一目惚れ」
「出会い方最悪でしたけど」
向井「それは、ほんま、ごめんなさい……! 俺、ほんとろくなことしてない気するわ」
「あはは、たしかに」
向井「でも、なんてかこう……好きやなって、思ったんよ」
「抽象的」
向井「しゃあないやん……! 今まで雑誌で言ってきたような好きなタイプとも全然ちゃうし、でも、めちゃくちゃに好きになっとるし、俺かて混乱してんの。最初なんか人妻やと思ったし……!」
「あれ本気だったんですか?」
向井「大マジよ! だって子供連れとったやん」
ぐいと酒を煽れば「飲むのはいいですけど、寝たら置いてきますよ」って笑われた。
向井「……一緒におってくれへんの?」
「やです。面倒なんで」
向井「ばっさりやなぁ」
「……もしかしたらもうふっかから聞いてるかもしれないけど、私、岩本照の元カノなんですよ」
向井「知ってます」
「別れた理由、私がいろんなこと面倒くさがったからなんです」
向井「……へぇ」
嘘。しんどなったって言っとったやん。
「……理想と現実は違いました?」
ぽつりとこぼした言葉に胸が締め付けられる。
向井「……違っとったけど、それでも俺は名前さんが好き、です」
「私、嫌な女ですよね。こうやって向井さん試して楽しんでる。向井さんならそうやって言ってくれるって、分かってて……」
向井「ええよ。俺のこと弄んでも。何回だって試してくれたっていい。……今の名前さんは、そんくらい、恋愛に、臆病になってる、ってことなんとちゃうの。そんなんでへこたれるような俺じゃないよ」
目を真ん丸く見開いて驚く彼女。すぐにくたりと細められて「ほんと優しい人」と笑われた。
「……付き合ってみます?」
向井「えっ」
「期間限定で」
向井「ええの?」
「向井さんが嫌でなければ」
向井「嫌なわけ、ないやないですか」
「じゃあ決まり。1ヶ月でどうですか?」
向井「……いや、それは短い! 3ヶ月! 3ヶ月欲しい!」
「じゃあ3ヶ月で。お手柔らかにお願いします」
頭を下げられ、俺も同じように頭を下げた。こんな簡単にカップル成立するとも思ってなかったから動揺が凄い。めっちゃ足震えてる。お酒の席での勢いやった、なんて言われんよう、頑張らんとな。