どうしようもなく私のもの

いつもみたいに泣きじゃくった彼女から電話がかかってきた。いつもみたいに電話をとった。そしたらいつもとは少し、状況が違っていた。

「……あのね、涼太くんね、彼女が、出来たんだって」

震える声で、なんとか言葉を紡ぐ名前。徐々に言葉数が減っていって、無言の時間が続く。

「……私、もう、どうしたらいいか、分かんなくなっちゃった」

投げ捨てるような言葉と消え入りそうな声。「今何処にいるの?」って慌てて聞いたのに電話は切られてて、俺は一目散に家を飛び出した。
名前の行きそうな場所、思いつく限り全て、頭の中をフル回転させて探す。


阿部「名前……!」
「……あべちゃん?」

やっと見つけた。……子供の頃、皆で遊んだ公園でひとりブランコを漕ぐ彼女を力強く抱きしめる。

阿部「危ないだろ、こんな時間に。凄く心配した。……本当に、心配したんだから」
「阿部ちゃん、どうして……?」
阿部「どうしてもこうしても! そんなの好きだからに決まってんじゃん!?」
「……え」
阿部「あーもう! こんな形で言うつもりなんてなかったのに! とりあえず! とりあえずふっかに連絡して! 俺頭冷やしてくるから」
「え、あ、うん……?」

少し離れたところで名前がふっかに電話してる声が聞こえた。「うん、うん。ごめんね」ってしゅんとした声が聞こえて、しばらくして「代わってって」と俺にスマホを差し出してきた。

阿部「はい、もしもし?」
深澤「阿部ちゃん? あんがとね、名前見つけてくれて」
阿部「いや、いいよ。大丈夫」
深澤「んで、悪いんだけど、俺迎えに行くって言っても嫌がるから、家まで届けてやってくんない?」
阿部「ん、分かった」
深澤「弱みに漬け込んで手出すなよ?」
阿部「だ……さない!」
深澤「おい、今、間があったぞ!」
阿部「出さない出さない。本当に、それは」
深澤「んまぁ、阿部ちゃんのこと信用してっから。んじゃねー」

そう言って電話は切られた。
まあ、弱みに漬け込んで手出すとか、出来てたらもうとっくにやってるし、出来ないから今こんな状況になってるわけで……。

阿部「送ってくから、帰ろ」
「ん……阿部ちゃんも、ごめんなさい。こんな遅くに……。勉強したかったでしょ……?」
阿部「大丈夫。勉強も大事だけど、名前の方が大事だから」
「……そっか」

家までの帰り道、同じ歩幅で少しゆっくりめに歩いて帰った。街灯で照らされる名前の目はうさぎみたいに真っ赤に腫れていて痛々しい。離れないように、手を繋げたらどんなに楽か。そんな行動力が伴ってない自分が情けなくなる。

しばらく歩いてマンションの前でお別れしようとした。でも出来なくて、結局部屋の前まで送った。「じゃ、目冷やしてから寝るんだよ」って呟いて後ろ髪を引かれる思いで踵を返した。

「……やだ。一緒にいて」

振り向けば、彼女の瞳は涙で潤んでいて、ちょっとしたことで溢れそうになっていた。「分かった」って頷いて彼女の部屋へとなだれ込む。部屋の鍵をかけた瞬間また堰を切ったように泣き出す彼女。小さく蹲って、どうにも出来ないからとりあえず彼女を抱えてリビングへと向かった。

阿部「……名前、やっぱり俺、帰ろうか?」
「やだ。ここにいて……。一緒にいて……。帰る、なんて、言わないで……」

そんなこと言うくせに、俺には一切触れてこない。服とか引っ張って、引き止めればいいのに、とちょっとだけ思ってしまう。しゃがみこんで、彼女と目線を合わせて抱きしめる。大丈夫、何処にも行かない。そう伝わるように優しく、包み込んだ。