永久論の剥奪

「阿部ちゃん、ごめんね……」

夢の中で、名前が謝ってた。何度も何度も、涙を流して。……泣かないでいいのに。謝らなくていいのに。泣き顔なんて見たくない。ありがとうって言ってほしい。俺を、好きに……。

硬めの床で寝たせいか体のあちこちからバキバキと嫌な音がした。自分が寝た時には使ってなかった毛布が掛けられてるのを見て首を傾げる。キッチンからは優しくて美味しそうな匂いが漂ってきた。

「おはよ、阿部ちゃん」

無理に笑顔を作ってるのがすぐ分かる。昨日真っ赤にしていた目はまだ少し腫れていて、それでも彼女は気丈に振る舞おうとしていた。

「ごめんね、私だけ、ベッドで寝てて……」
阿部「いや、あ、うん。そりゃそうでしょ。名前んちなんだから」
「……お詫び、と言うほどのものじゃないんだけど、朝ごはん、食べる?」
阿部「え? うん、じゃあいただこうかな」

名前の作ったご飯を食べて、時計を確認する。そろそろ仕事行かなきゃ……。でも名前を放っておくのも不安。

「……ごめんね、ほんと。忙しいのに」
阿部「ううん、大丈夫」
「……昨日のこと、聞かなかったことに、するから」
阿部「え?」
「いってらっしゃい」

くしゃりと、歪んだ顔を見せる彼女はまだぎこちなく見えて、俺も同じようにぎこちなくなってしまう。聞かなかったことにするってどういう意味……? そんなことを聞く間もなく、玄関のドアが閉じられる。バタンと強めに閉まった音が、名前の心を閉じる音に聞こえてひどく悲しかった。