(嫌われたって、私は笑うもの)

「「あ」」

テレビ局の廊下で偶然、照くんと出会った。聞けば今から音楽番組の収録があるらしい。

「照くんまた筋肉ついた? ムキムキくんだね」
岩本「なにそれ。名前は痩せたね」
「まぁ……」
岩本「相変わらずご飯食べてないの」

たぶん、照くんと付き合ってた頃が一番、ちゃんとご飯食べてたかもしれない。今は、1日に1.5食くらいしか食べない日が多い。食生活は荒れに荒れまくっていた。

「……ちょっとは食べてるよ」
岩本「ちゃんと食べなさい」

こうしてたまにお母さんみたいなことを彼は言う。付き合ってる時もそうだった。わしゃわしゃと照くんの大きな手が私の頭を撫でる。少しだけ照れくさくて、でも嫌ではない。

岩本「SNS、見たよ。なんか、すげー綺麗に撮られてて、ちょっと嫉妬した」
「……誰に?」
岩本「カメラマンに」

嬉しいんだか、嬉しくないんだか分からない感情が胸を襲う。重いなって思う半面、やっぱりちょっとは嬉しかったりするもので……。自分のことながら、女心の難しさに頭を悩ませる。

「……照くんだって、可愛いの、撮ってもらってたじゃん」
岩本「え?」
「アクリルスタンド」
岩本「……見たの? てかかっこいいじゃないの?」
「可愛い」
岩本「……やだ、かっこいいって言って」

出た。拗ね拗ねくん。

「はいはい、かっこいいよ」
岩本「言わせてるみたいじゃん」
「言ってあげてるの」
岩本「はいはい、ありがとね」
「じゃ、私そろそろ行くね」
岩本「ん。……なぁ、今度さ。時間あったら、どっか行かない? 2人で」
「……行かない」
岩本「……ん。あのさ」
「あのさ、照くん」

彼の言葉を遮るようにして口を開く。震えているのを必死に隠すように背中を向けて息を整える。

「私、もう24になったんだ。ビールは飲めないけど、あの頃よりは少しは、大人になってるはずなの。……だから、過去に振り回されるのはもうやめる」

それだけ言い残して彼の前から立ち去る。何も言わないよね。何も言えないよね。分かってる。分かってるけど、それでも何か言ってくれたらと思ってしまうのは、ずるいかな。……好き、だったよ。さよなら、初恋の人。