目が覚めると見慣れない天井が俺を迎えた。あ、昨日樹んちで飲んでそのまま寝たのか。テーブルは綺麗に片付いてて、どこからか味噌汁の匂いが漂ってきた。
「あ、渡辺さん。おはようございます」
渡辺「おはよーございます」
「お味噌汁、飲みます? インスタントですけど」
渡辺「あー、じゃあ。はい」
曖昧な返事をすると数分で「はい」と味噌汁が出された。
「昨日はすみません。勝手に盛り上がっちゃってて渡辺さん寝たの気づきませんでした」
渡辺「や、大丈夫、です」
「めちゃめちゃどうでもいい兄妹喧嘩でしたよね」
渡辺「そうっす、ね、え? 兄妹喧嘩?」
「あれ、言ってませんでしたっけ。私、樹の妹です。双子なんですよ、実は」
渡辺「え? まじ?」
「こんなことで嘘つきませんよ」
動揺を隠すように味噌汁を流し込む。ちょっと口ん中火傷した。てかそれにしては樹ベタベタしすぎじゃない? まじで彼女かと思った。なんて言葉はどうも頭の中だけで収まらなかったらしく口から洩れ出ていたらしい。「田中家唯一の娘なんで甘やかされてるんです」って彼女は笑いながら樹を起こしに行った。
「樹、いい加減起きたらー? わ、ちょっ! ねえ! 重い! 退いて!」
見なくてもなんとなく想像がついた。助けに行く気もなくリビングでぼうっとしてたらふとさっきまで見てた彼女の顔が頭に浮かんだ。あれ、すっぴんだよな。化粧した顔、朧気にしか覚えてないけど、田中家って感じでバチバチに決めてたのは覚えてる。すっぴんはちょっとだけあどけなくて、普通に綺麗だなって思った。
無口な樹がふらふら歩いてきてとんと俺の横に座ってまた寝始めて。暫くして出てきた彼女は昨日の晩みたいにしっかりメイクをして顔を作っていた。
「樹! ほら顔洗って。今日も仕事でしょ? マネージャーさん来るって」
田中「ん……」
ぱきぱきと動く彼女と一挙一動が遅い樹。双子なのにこうも違うのかと驚きつつも、30分で準備を済ませて樹を見送ったあたりで謎に感動を覚えた。
渡辺「俺もそろそろ帰ろっかな」
樹が出てってから10分くらい経った頃、そうぽつりと呟いた。長居しててもあれだし。
「遅くまでありがとうございました」
渡辺「や、別に。こっちこそ味噌汁とか、ありがとうございました」
「全然! お湯入れただけなんで。またたぶん会いそうですね、私たち」
渡辺「そっすね」
「樹共々これからもよろしくお願いします」
渡辺「こちらこそ」
玄関まで見送ってくれてお互いに小さく手を振って別れた。……連絡先くらい聞いときゃ良かったかな、なんて小さな後悔を胸に。また会えるだろうし、そんときこそ聞こうと誓った。