くまのぬいぐるみの独白

「お前の妹どうなってんの」
「名前? 何かした?」

楽屋入りしようとしたら不意にそんな声が聞こえた。話し声的に翔太とだてさん。……なんか入りづらくて、でも話は気になってドアの前で立ち聞きしてしまう。

渡辺「辰哉くんかっこいいとかテレビで見る度にLINEしてくんの。別れたんだろ?」

何そのLINE。直接俺に送ってくれればいいのに。俺まだ名前のLINE削除出来てないんだけど? ブロックも何も出来なくて、ずっと下の方に残ったまま。

宮舘「うん。名前の方から別れたいって言ったらしいよ」
渡辺「聞いた。怖くなったとか、何今更なこと言ってんだよって思ったけど」
宮舘「どういうこと?」
渡辺「あー、いや、聞いてないならいいわ」

気になったけど、だてさんがそれ以上深く突っ込まないから俺も聞けなくて……。悶々とした感情のまま、入るに入れないでいたら「ふっかさん何しとんの! 入らんの?」と康二の声が響いた。うわー、気まず。康二に連れられて楽屋入りして、更に気まずい。

宮舘「聞いてた、ね」
深澤「聞いてた」
渡辺「まじか」
向井「何の話?」
深澤「お前はいいの」
渡辺「ふっか今晩飯行くぞ」
向井「え、いいな……翔太くんとご飯……」
宮舘「康二。今日は我慢」
向井「ほなだてさんご飯連れてって」
宮舘「分かった分かった」

空気の読めない康二がいて逆に少しだけ明るく話が出来る。とはいえ、内心は……。


仕事はそれなりに、それなりに終わった。俺の些細なミスも皆がカバーしてくれてなんとか。
行きつけのラーメン屋に入って翔太と隣同士で座るとずっと張ってた気が抜けたみたいに全身から力が抜けた。

渡辺「何食う」
深澤「チャーシュー麺」
渡辺「じゃあ俺も」

特に何を話すでもなく時間を過ごす。飯食って腹いっぱいになって、じゃあそろそろ本題に入んのかと思ったら翔太が「出るか」って言い出して。

深澤「話は」
渡辺「別にここじゃなくてもいいだろ」

それぞれにお代を払って店を出る。平日にもかかわらず人の少ない夜の公園で男ふたり、適当に歩いてるとようやく翔太が口を開いた。

渡辺「お前との関係がバレたらって思ったら怖くなったんだってよ」
深澤「は?」

何それ。てかなんでそんなこと翔太に話して俺には話してくんないの?

深澤「……なんだよ、それ。もしバレても、俺がどうにかするし」
渡辺「どうにか出来んのかよ」
深澤「名前ひとり守るくらいなら」
渡辺「……それじゃ名前のこと守れても、ファンのことは守れねーんじゃねえの」

翔太に言われてはっとした。俺たちは普通の人間だけど、普通とは違う。応援してくれるファンがいてこその仕事をしてる。……そんな俺らの粗を探して面白おかしく書いて報道するような人達も少なくない。それで、名前に危害が及ぶようなら、それは俺が守らなきゃいけないと思ってた。でも、その先。俺やSnow Manを推してくれてるファンや、Snow Manに関わってくれたスタッフさんたちのことまでは、深く考えてなかった。

深澤「……そっか」

それ以上翔太は何も言わなくて、駅で解散になった。
迷惑かもしんないけど、少しでいいから名前と話がしたい。気付いたら彼女のマンションがある最寄り駅まで電車を乗り継いでた。