段々と人が減っていく駅をぼんやりと眺めてると、終電でようやく彼女が降りてきた。ほんのり頬が赤く染まって見えた。……酒でも飲んできたの?
深澤「名前っ」
「……えっ」
くるりと踵を返す彼女。「待って」と彼女の腕を掴む俺。安いドラマみたいな展開を俯瞰で見るもう一人の俺が鼻で笑う。
深澤「ちょっとだけ、俺に時間くんない?」
黙りこくる名前に「お願い」と念を押せば困った顔して頷かれた。
「……ここじゃ目立つから」
深澤「あ、うん」
駅から徒歩10分。彼女の住むマンションに足を踏み入れるのは、いつぶりだっけ。何も変わってなくて安堵した。
「……適当に座って」
深澤「ん」
寝室の方へ行った彼女を見送り、とりあえずソファに腰かける。ああ、ここずっと俺の定位置だったんだよなぁ。
「お待たせ」
深澤「その服、初めて見た」
「……こないだ買ったから」
深澤「かぁいい」
ふにゃと口角が緩むのは、久しぶりに彼女に会えた嬉しさから。前までみたいに上手く話せてるか不安になってるなんて気取られないように。
「……どうしたの、急に」
深澤「んや。今日、酒とか飲んでる?」
「……ん、ちょっと」
深澤「そっか。だから顔赤いんだ」
「……用ないなら、帰って」
深澤「あー、ごめん。もっかいちゃんと話したくてさ」
付き合ってた頃は、俺の隣に躊躇いなく座ってた彼女が、今は床に正座してて。上手く言えないけど会えなかった間の距離を感じた。
深澤「前に名前が別れたいって言った時、俺のこと、遠くに感じるって言ってたじゃん。……あの時、ちゃんと聞けなかったから。もっかい、話したい」
「……言うことなんてないよ」
深澤「……じゃあ、なんで俺が出てる番組、見てくれてるの?」
「えっ」
深澤「翔太にLINEしてんでしょ?」
「翔太くん……」
恥ずかしそうに顔を覆って、指の隙間からちらりと俺を見つめる名前。なにそれ、可愛い。
深澤「名前の、正直な気持ち聞きたい。ぼろくそに言ってもいいから」
「……ぼろくそに言ったら、辰哉くん怒るじゃん」
深澤「怒んねえよ」
そんなんじゃ怒んない。むしろ、今のまま帰される方が怒るかもしんない。名前の隣に座って向かい合う。
「……あ、辰哉くん」
深澤「ん?」
「デビューおめでとう」
深澤「え、あ、あんがと」
「あの日、嬉しさと驚きと、ようやく……って気持ちと、入り交じって、胸がいっぱいになったの」
ぽつぽつと胸の内を話し始める彼女。ずっと視線はさがったままで、俺の方は見てくれない。
「……ずっと、考えてたんだ。デビューして、辰哉くんがもっともっと、有名になって、ファンも沢山増えて。そんな中で、もし、私たちの関係がバレたらって。週刊誌に撮られたらどうしようって」
不意に目が合った。彼女は少し困った顔をしていて、今すぐ抱きしめたい気持ちをぐっと堪えながら、言葉の続きを待った。
「……辰哉くんにも、Snow Manにも、迷惑かけたくない」
彼女の口からこぼれた本音に、上手く言葉が出てこなくて体が先に動く。気づいたら名前を抱きしめていた。
深澤「……ねえ、今でも、俺のこと好き?」
「……なんで、そんなこと聞くの」
深澤「俺は名前が好き。ずっと、忘れらんなかった」
ぎゅうって、彼女の手が俺の服を掴んだ。何も話さないのに、俺のことも離してくれなくて。
深澤「テレビの中の俺、かっこいい?」
冗談交じりにそう聞いたらこくりと首が縦に振られた。
深澤「……なんかあったとしても、俺は名前のこと、守るよ。男として、それくらいさせてほしい。……でも、これでもアイドルだから、ファンのことも守る。普通の男と付き合うときみたいなデートとか、させてあげらんないかもしんないけど、それでも、俺の傍にいてくんない? 俺、名前がいないとダメだわ」
ぱっと上げられた彼女の顔には涙が滲んでいて、俺と目が合うと、くたりと笑みを浮かべられた。
「……ずるいなぁ」
そう言って、彼女は俺の胸に頭を預ける。そしてそのまま、すやすやと寝息を立てて眠ってしまった。うわ、生殺しもいいとこだよ。何もしないって決めてたけど、理性が揺らぐくらい、彼女が可愛くて困ってしまう。
深澤「……ずるいのは、どっちだよ」
彼女を寝室へと運んで、俺もリビングのソファで寝させてもらう。このまま帰ったら鍵掛けらんないしね。
明日の朝、名前が起きたら、俺のことどう思ってんのか聞いてみよう。……これで振られたら、諦めるしかないって、覚悟も決めて。