心臓は鼓動を始めた

コーヒーの匂いで目が覚めた。まだぼんやりとした頭で起き上がれば、体に毛布が掛けられていたことに気づく。

「おはよう」
深澤「ん……、あー、おはよ」

なんでそんな普通にしてられるんだろ。昨日とは違う服を着てる名前はふんわりとシャンプーの匂いがしてときめいた。

「昨日、ごめん。話の途中で寝ちゃって」
深澤「大丈夫。でも返事だけ聞いてもいい?」
「……あ、うん。……私も、辰哉くんのこと、好きだよ。でも、でももし、また付き合うことになって、週刊誌とかに、バレたら、私じゃなくて、ファンを守ってほしい」
深澤「え?」
「……私は、あくまで宮舘涼太の妹。メンバーの妹だから、よく相談に乗ってて、恋愛感情なんてない。そんな簡単な言い逃れじゃ、ダメなのかもしれないけど、でも、ファンを守るための選択を、してほしい」

ファンを守るための選択。俺がアイドルであり続ける限り、ずっと付きまとう問題だと思う。だけど、それでも俺は名前を幸せにしたい。……ずるい? 知ってる。わら。
ただ、今は彼女を繋ぎ止めるため、俺の傍にいてほしいからってそんな自己中心的な願いのために、彼女の言葉を飲み込んで頷いた。

深澤「分かった」

こくりと頷いて、彼女を抱き寄せる。「キスしていい?」って髪を撫でながら尋ねる。

「……だめ」
深澤「なぁんでよ」
「……恥ずかしい」

そういえば付き合いだした時も、そんなこと言ってたっけ。「大丈夫、すぐ慣れるから」って彼女の目を見つめて、唇を指で撫でて奪う。

深澤「……好き。超好き」
「……恥ずかしいから」
深澤「いいじゃん。言わせてよ」
「……だめ」
深澤「いーやーでーすー。別れてからもずっと、名前のことが好きだった」
「……恋愛は上書き保存じゃないの」
深澤「お前超えるような恋愛なんてなかったってことじゃん」
「……ばか」
深澤「なんでもいいよ。名前が傍にいてくれたらもうなんでもいいの」

強く彼女を抱きしめて、首に顔を埋めて、逃げられないようにした。「苦しい」って笑う彼女の唇に何度もキスをして、そのまま寝室に連れ込んで……。

深澤「いいよね?」
「……ん、聞かないでよ」
深澤「名前の気持ち、大切にしたいから」

そう呟くと彼女はくしゃりと笑って「辰哉くんの好きにしていいよ」って。どこまでもずるくて愛おしくて回答に胸を打たれて、そのままふたりで、朝からベッドに雪崩込んだ。