わん、つー、すりー

仕事が一段落して、久しぶりに学校へ通う。僕の隣は机もなくてぽっかり空いた状態だったのに、今朝は違った。新しい机が増えてる……。誰か、転校生でも来たのかな。ぼんやりとそんなことを考えながら、朝のHRまでの時間を過ごす。少しして「おはよう」と誰かから声を掛けられた。

ラウール「え、あ、おはよう、ございます」
「会うの、初めてだよね? 目黒名前です。この間の月曜日に転校してきました。よろしくお願いします」
ラウール「よ、よろしく、お願いします……!」

目黒って苗字に思わず反応する。珍しい苗字じゃないけど、まさか……ね……?

「いつもお兄ちゃんがお世話になってます」

そのまさかだった。「え、めめの妹……!?」と頭の中で考えてたことがそのまま言葉になって彼女へと投げられる。彼女は「そうだよ」と笑った。

「ラウールくんの話、よく聞いてる」
ラウール「え、何の話……?」
「勉強出来て凄いとか、ダンス凄いとか、あといつどこで泣いてたとか」
ラウール「めめ何話してんの!?」
「ふふ、なんかね、ふとしたときによくラウールくんの話題が出るんだぁ」
ラウール「そうなんだ……!」

自分の知らないとこで自分の話をされるのは気恥しいけど、めめからそんなふうに自分の話が出てるってのはちょっと嬉しいかも。他愛もない話をしていると始業のチャイムが鳴った。

1時限目は英語。先生は入ってくるなり早々に「テストやりまーす」と言って自作の小テストを配り始めた。久しぶりに授業受けるってのに、一発目からテストとかついてないなぁ……。しかも、英語はちょっと苦手。

教師「はい、終わりー。隣の人と小テスト交換してー」

俺の隣は名前ちゃんだから、必然的に彼女の答案の丸つけを俺が、俺の答案の丸つけを彼女がすることになる。

「はい、お願いします」
ラウール「あ、はい……っ」

答案を交換する時に、一瞬、互いの指が触れる。少しだけ、どきっとして、触れたとこが熱く感じた。何事も無かったかのように丸つけをし始める名前ちゃんを見てたら、俺だけ意識してるみたいでなんだか恥ずかしい。
ちなみに、返ってきたテストは3割くらい間違ってて、名前ちゃんの字で訂正されていた。


帰りのHRが終わると急いで支度をして仕事へ向かう。教室を出る前、ドアのところで、ふと彼女の方を見て「ばいばい」って呟いたけど、誰にも聞こえなかったみたい。彼女はまだ帰り支度をしているようだった。