2023.05



「ドーム、見に来てよ」

そう言われたのは発表があった日から1週間後のことで、思わぬ誘いにくしゃりと顔が歪んだ。

「もうチケット応募したよ」
「え、まじ?! 嬉しい!!」
「当たるかは分かんないけど」
「……もし当たんなかったらすぐ言って。チケット用意するから」
「それは悪いよ」
「俺が優陽に見てもらいたいの」

私の手をとってぎゅうって握って子犬みたいな顔でお願いされた。年上なのにこういう時だけそんな顔するのずるいなぁ、なんて思いながら「分かったよ」って首を縦に振った。


***


それから1ヶ月近くの刻が足早に過ぎた。帰りの車内でFCサイトを確認して、大きめの息を漏らした。

「どうかしました?」
「春見さん、あの7月の頭ってまだ空いてましたよね?」
「ええ」
「7月1日お休みいただきたいんですが……」
「分かりました。空けておきます」
「ありがとうございます!」

よかった。これでひと安心。春見さんにはいつも頭が上がらない。静かに彼女を拝んでいると、ルームミラー越しに目が合った。

「今度はどちらに行かれるんですか」
「愛知に……。コンサート、当たったんです」
「お日にちは7月の1日だけですか?」
「そうですね、1日だけ」
「分かりました」

家まで送ってもらい、春見さんにおやすみを告げて別れる。明日は昼からだからちょっとだけゆっくりできる。とはいえ、次の撮影の準備もあるから、寝る前にもう一度台本に目を通しておきたいんだけど。
ふ、と息を吐いてお風呂の支度をして、スマホ片手に少しだけ長めに湯船に浸かる。

『名古屋当たったよ👍』

そうLINEするとすぐに『おめでとう!😆』とひかるから返事がきた。そこから少しやりとりをしてお風呂を出た。
7月の名古屋って暑いのかな。何着ていこう。
考えるだけで楽しくなって気持ちが跳ねた。今度の休みにひかるに相談してみようかな。


***


午後から休みになった日、ひかるはひかるで朝から休みだったみたいでジム終わりに私の家に来てくれた。ソファで隣に座って身を寄せあって1台のスマホを覗き込む。

「ねえ、これは?」
「スカート短すぎ。やだ」
「じゃあこっち」
「肩とか鎖骨とか出すぎじゃない?」

しゅっしゅっとスワイプしながらいくつかの服を見せていく。名古屋に何着ていくかの相談。せっかくだからひかるがかわいいって言ってくれるのを着たいしね。

「んー、じゃあこれ」
「あー、これかわいい。肩出てるけど」
「下はデニムにしますので」
「……じゃあまあ」
「よーし決定!」

次の休みに店舗に行ってお洋服見てこよっと。

「服、買ったら1番に見せて」
「んー、どうしよっかなぁ」
「えー?」

くすくす笑いながら、触れるだけのキスをして「考えておくね」って言葉を返した。