3Bと新しいリップ
通販サイトで見かけたリップティントが昨日ようやく届いた。男装してた頃はこういうの集めるのも躊躇われてたけど、今はあまり気にせず買えるから嬉しい。
「おお、いい感じかも」
ふふ、と鏡を見ながら笑ってしまう。単純だけどそれだけで気分が上がるし一日のモチベーションに繋がるからいいや。マネージャーさんが来る時間を確認して、身だしなみをチェックした。
***
マネージャー「お待たせしました」
「おはようございます。朝からありがとうございます」
目黒「おはよ、奏依」
「おはよ」
蓮はぽんぽんと自分の隣の席を叩いて、私に座るよう促した。こんな空いてるのに別にそこじゃなくてもいいのでは? と思って後ろに行こうとしたら「ここ座ってよ」と半強制的に蓮の隣に座らせられた。
目黒「あ、今日のリップ可愛い」
「え、本当? 分かる?」
目黒「分かるよ。似合ってる」
蓮って人のことよく見てるんだなぁって感心した。それに褒められてちょっと嬉しい。「ありがとう」と返すと「どういたしまして」って髪を撫でられた。
***
午前の仕事を終えて次は事務所へと向かう。特に何かあるわけでもないんだけど、時間つぶしで。事務所の使い方として間違ってるかもだけど。ザムビでも撮ろうかな。
深澤「なーにしてんの」
「わ、ふっか。驚かさないでよ」
深澤「驚かせたつもりないんだけど」
「急にふっかの顔出てきたらびっくりするよ」
深澤「え、顔でかいって?」
「言ってません」
深澤「てか奏依、リップ変えた? 今日なんかぷるぷるしてんね」
「え、あ、うん。変えた」
さらっとそんなことを言うふっかに驚きつつ、褒められたことには嬉しさを感じる。
「そんな分かるもんなの?」
深澤「奏依のことはね」
「なんか、意外」
深澤「なんでだよ。俺はいつだってそうだろ?」
「ふっかも意外と人のこと見てるんだね」
深澤「"も"ってなんだよ、"も"って!」
***
今日最後の仕事は翔太くんと雑誌の撮影。美容特集なんだって。翔太くんは分かるけどなんで私まで呼ばれたの? って気持ちが大きかったりする。楽屋入りすると既に翔太くんが座っていて「おう」なんて素っ気ない挨拶をされた。
「ねえ、私の顔になんかついてる?」
あんまりにもじっとこっちを見るから、不思議に思ってそう尋ねるといつもの調子で「は?」と言われた。
渡辺「別になんもついてねえけど」
「じゃあなんでそんなじっと見てくんの?」
渡辺「お前リップ変えたろ」
「うわ、怖っ。なんで分かったの」
渡辺「いや、そんなん見りゃ分かる」
「凄すぎて引いてるよ」
渡辺「ふざけんな」
「いや、あのね。今日ふっかと蓮にも会ったの」
渡辺「それがなんだよ」
「2人ともリップ変えたの気付いてくれて、翔太くんで3人目なの。凄くない?」
渡辺「うわ、まじか」
目をぱちくりさせて驚く翔太くん。さすがに驚くよね、私も驚いたもん。しばらく静寂が続き、小さく翔太くんが頷いた。
渡辺「お前、このリップ1人仕事のときつけんの禁止な」
「え、なんで?」
渡辺「なんででも。他のやつ買ってやるから」
「えー、気に入ってるのに」
渡辺「いいから」
リップまで没収されて、その晩は翔太くんと電話をしながら日付が変わるまでネットサーフィンをすることとなった。結局良いのは見つからなくて後日買い物に行くことになったけどそれはまだ先の話。