作戦会議はカレーライスと共に


それから、意外と俺と衣都ちゃんのルームシェアは順風満帆なものになっていた。朝は衣都ちゃんの方が早いことが多いけど、1限から講義の日は俺も早起きして一緒に朝ご飯を食べる。衣都ちゃんがトーストを焼いて俺がコーヒー入れんの。あんまりまったりは出来んけど「今日は何時に帰るよー」とか「もうすぐジャムなくなりそうだし買わなきゃねー」とかそんな話して情報共有して、俺より先に家を出る衣都ちゃんを「いってらっしゃい」と送り出す。

「最近ご機嫌だね」
「おう、おはようさん」
「おはよ」

講義室で席取りをすると、後ろからぽんと肩を叩かれる。そのまま彼女は俺の隣に座って、講義の準備を始めた。

「彼女とより戻した?」
「ない! ないない!」
「あれ、そうなんだ」
「でも、初恋の子と再会した」
「え! そこから恋始まっちゃった感じ?」
「ん〜〜〜! 恋は! 始まってへん! けど!」
「けど?」
「……なんやかんやあって、その、今ルームシェアしてる。その子と」
「えっ、ええ!?」

ぱちぱちと数回瞬きをして彼女は「ほんとに……?」と小さく呟いた。こくこく頷いて応えると「ちょっ、詳しく」と言われた。でも話そうとしたタイミングで講師が入ってきて講義が始まった。彼女は少し頭を抱えてから「後でね」と絞り出すように言った。たぶんほんまは今すぐに知りたいんやと思う。それでも講義を優先して、真面目に講師の話に耳を傾けていた。ちゃんと板書とっとんのに、所々に落書きの跡があるのが彼女らしい。そう思いながら俺も講義に集中した。

「康二くん、2限あったっけ?」
「ないよ。次3限でまた一緒やん」
「あ、そうだそうだ。今日水曜だった」

講義が終わり、荷物を片しながらそんな話をする。そのまま2人で食堂へと移動した。ちょっと早い昼飯を食べながらさっきの話の続きをする。

「ルームシェアって、前に彼女と借りるって言ってた部屋?」
「そうそう、ひとりやと持て余すから」
「相手の子は……こんなこと聞くのあれだけど、大丈夫なの? それ」
「大丈夫って?」
「いや、なんていうか、その……、付き合ってるの?」
「付きおうてない」
「付き合ってないんだ」

一口大のオムライスをごくりと飲み込んで彼女は言葉を続けた。

「康二くんだって一応は男の子なんだからさ」
「そうやな……」
「てかその子と……したの?」
「し、してへんよ!」
「そうなの?」
「そうやよ。そんなん、付き合ってないのに、せえへん」
「ふーん」

彼女は不思議そうに俺を見て「まあ康二くんだしそっかあ」と呟いた。俺の事何やと思ってんのこの子は!

「付き合う気はないの?」
「……付き合えるんなら、付き合いたいよ、俺は。せやけど、向こうは分からんやん」
「これはあくまで私の持論でしかないんで、その人はどう思ってるか分かんないけどさ。ルームシェアしてもいいって思えるくらいなんだから、気がないことはない気がするんだよね」
「ほんま?」
「まあもしくは全く意識されてないか」

あははと笑いながら彼女はそう言い放った。一瞬、上げられてすぐ落とされた感じ。でも、それで浮かれたからって、衣都ちゃんに告白とか出来んけど。

「なんかあったら話聞くし。振られたら呑み行こ」
「え、でも彼氏さん……」
「あ。ひーくん同席で」

そう言う彼女は凄く幸せそうな顔をしていて羨ましくなった。年上で幼馴染の彼氏やっけ。少女漫画みたいな恋を実らせて結ばれた彼女は、前よりも何倍も可愛くなった気がする。そんな彼女が俺の事を心配してくれてるのは言葉の端々から伝わってきた。彼氏さんも良い人そうやったからきっと、傷心したらふたりで慰めてくれるとは思う。まあ、傷心したないんやけどな。でもその厚意だけはありがたく受け取った。






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