Spoiled by me
岩本「奏多、そこズレてる」
「ごめん!」
奏多の顔色が悪い。ダンスのキレもいつもより悪くて、明らかに体調が悪いって俺も気付いたし、たぶん他のみんなも分かってた。それでも彼女は自分から練習を止めることは無かった。
深澤「休憩しよ、休憩」
先にそう言ったのはふっかだった。それぞれが水分補給をしたり汗を拭ったりする中で奏多だけがまだ振りを確認していた。
岩本「奏多、休憩」
「ん、分かってるけど、俺遅れてるから……」
岩本「無理に詰め込んでも入んないから」
照からドリンクを手渡され奏多はようやく動くのを止めた。ずっと渋い顔をしてるのは、練習への遅れからか、それとも体調面からか。恐らく後者。
「ごめん、ちょっと出てくる」
そう言って彼女は外へ出ていった。
和気あいあいと話をしていた中、暫くして翔太が口を開いた。
渡辺「で、この後どうすんの」
阿部「奏多の調子悪い中で続けんのも……」
渡辺「アイツ、休めって言っても休まねえから」
深澤「変に真面目だしなぁ」
佐久間「てかしの帰ってくんの遅くない?」
佐久間がそう呟いた瞬間、全員が互いの顔を見合わせた。そして飛び出したのは俺と翔太だった。
渡辺「アイツどっかで野垂れ死んでんじゃねえの」
宮舘「やめなさい。どこかで休んでるだけならいいんだけど」
二手に別れて少し走りまわって、休憩室の端っこでようやく奏多を見つけた。
宮舘「こんな所にいた」
「……っ、舘様?」
ぎゅっと身体を縮こまらせて顔を顰める奏多。汗が滲んでいて、さっきより体調が悪化してるんだとすぐに悟った。
宮舘「お腹痛い? 薬は?」
「……飲んだ。大丈夫、気にしないで」
宮舘「大丈夫じゃないから言ってんの。汗臭いかもしんないけど、これ着て」
俺のジャージを羽織らせて暖を取らせる。こういうことを考えるのはあれだけど、たぶんあの日なんだと思う。薬も飲んだって言ってるし温かくして楽な姿勢で休むのがいいって聞くけど、彼女は動くことすらままならないみたいで、じっとそこで丸まっていた。
遅れて翔太も駆けつけて奏多を見るなり「何してたんだよ!」と声を荒らげていた。奏多は怯えるような顔をしていて、でもしかめっ面のままで、翔太を睨んでいて。翔太も翔太で「はあ?」と奏多を睨んでいた。
宮舘「はい、二人とも睨まない。奏多見つかったし、翔太は皆に伝えてきて。今日の練習は終わりにしてもらおう」
渡辺「……おー」
「待って、俺、出来るから」
渡辺「具合悪いのに無茶すんじゃねえよ! 大人しく寝てろ!」
そう言い残して翔太はレッスン室へ走って戻っていった。縋るような視線を奏多は向けてたけど、俺も翔太の意見に賛成。今日は休むべきだ。
宮舘「奏多。分かってると思うけど、翔太だって奏多のことが心配なんだ。勿論、俺も、他のみんなも」
「んー……」
宮舘「で、無理はしてほしくないの」
「ん……」
宮舘「分かった?」
「……ごめんなさい」
しゅんと頭を下げる奏多。普段の彼女からは見られない弱々しい姿に、思わずふっと笑ってしまう。
宮舘「怒ってないから大丈夫だよ。……ちょっと嫌かもしんないけど、我慢してね」
そう断って、俺は奏多を抱き上げる。「つらくない?」と聞くと「大丈夫、でも俺、歩けるから」と返された。そんな強がりは聞こえないふりしちゃう。
宮舘「戻ろっか、皆のところに」
「うん……」
ぎゅっと俺に身を寄せる奏多。やっと弱いところ見せてくれた。それだけでちょっと嬉しく思ってしまう。
「……皆に謝らなきゃ」
宮舘「謝らなくてもいいよ。その代わり、辛い時はちゃんと俺たちに甘えて」
「……ん。ありがとう、涼太くん」
宮舘「ふふ、どういたしまして」
レッスン室へ戻ると、皆して俺たちの周りを囲んできた。奏多の体調はまだ良くなってないから、なるべく大きな声は出さない形で。その日はすぐに解散して、俺と佐久間で奏多を自宅まで送った。