ある日の渡辺くん
渡辺「お前今日暇?」
「……暇、だけど、ノックくらいしたらどう?」
渡辺「あ、悪い」
「いや、いいけどさあ」
何も考えずにドアを開けたら、もう完全休日モードでだらけてる奏依が目に入った。部屋着のTシャツから伸びる生脚に息を飲んだなんてこいつには絶対バレたくない。……でもこいつ脚綺麗なんだよな。細いし。
渡辺「出かけんぞ」
「え!?」
渡辺「……なんだよ」
「あ、いやごめん。なんか意外で」
渡辺「YouTube見切ったし。お前運転」
「え、あ、はい」
話が着くとおもむろに着替えを始めようとする奏依。ノックしろとか言うならその辺の恥じらい持てっての。
バンッ! とでかい音を立てて部屋を出る。なんなのあいつ。まじで。
少しして、着替えを終えた奏依がリビングへやってくる。……さっきまでのTシャツ姿も悪くなかったけどちゃんとした格好したらやっぱこいつちゃんと美人だしモデルやってるだけあるなって思った。
「おまたせ」
渡辺「おう」
「じゃあ行きますかー。どこ行く?」
渡辺「無印」
「好きだね無印。ららぽーとでいい?」
渡辺「おう」
奏依が運転するときは決まって奏依のスマホからBluetoothを飛ばす。とは言っても俺も好きな曲とか入ってるし、こいつは気にしないから俺が勝手に音楽変えたりする。
「着いた」
渡辺「おー」
車から降りて中を見て歩いてると辺りはカップルばっかりで、なんか俺たちもデートみたいだなって急に意識してしまう。手とか繋げればいいのかもしんないけど、こいつ外でそんなんすんの嫌がりそうだし……。
「無印どこだっけ」
渡辺「こっち」
人の波に飲まれそうになるのを、無理やり手を繋いで連れていく。これは別に、そういうあれじゃねえから。こいつほっといたら迷子になりそうだから、一応繋いでるだけだし。
「あ、アクセサリーケース」
渡辺「買う?」
「え、うん。買おうかな」
渡辺「んじゃここ入れて」
「え、あ、はい」
さっさと物を買ってついでに奏依のアクセサリーケースも買う。無印の袋を持ったまま、目的もなく歩き出すと今度は奏依が俺の手を引いた。向かった先は本屋。
渡辺「何買うわけ」
「ハニレモ。あと、スノーマンっていう絵本」
渡辺「Snow Man?」
「あ、あった。買ってくるね」
渡辺「お、おう」
雪だるまの絵本。……あいつなんでか絵本好きだよな。何が好きとか知んないけど、あいつの部屋の本棚、俺らのグッズとSixTONESのグッズとアニメのグッズと絵本で埋もれてるもんな。
「……あの、渡辺くんですか?」
渡辺「え?」
ぱっと視線を向ければ知らない女の人が2人。え、誰?
「あの、私、Snow Manのファンで……!」
渡辺「あ、はぁ。ありがとう、ございます」
「握手、してもらってもいいですか……?」
渡辺「え、あ、はい」
「ありがとうございます……!」
ファンの子と遭遇。握手したら泣いて喜んじゃって。でも話を聞いたら目黒のファンだって言うし、隣の子に至ってはSixTONESの樹のファンだって。おい、俺じゃねえのかよって内心悪態をついた。すぐに離れていったファンの子たちと入れ違いに帰ってきた奏依。
渡辺「どこ行ってたんだよ」
「え、本買ってくるって言ったじゃん」
渡辺「……言ってたけど」
「何かあった?」
渡辺「ファンに遭遇した」
「え、いいなー」
渡辺「俺のファンじゃなくて目黒と樹のファン」
それを聞いて、思いきり笑う奏依。なんなのこいつ。ガム踏まねえかな。
「それでも嬉しいね。知ってもらえてるってのは」
渡辺「……ん、まあ」
奏依の荷物を奪って、また適当に歩き出す。人増えてきたからこっそり手繋いでみたら「翔太くん?」と不思議そうに尋ねられた。「お前、すぐ迷子になっから」って返すと「あぁ、たしかに」って納得したのか大人しくなった。
奏依の奢りでスタバ買って、奏依の運転で家まで帰る。
「私もファンの子に会いたかったなぁ」
渡辺「残念だったな」
「まあ、また機会はあるだろうし」
渡辺「ん」
「ん? 何? くれんの?」
渡辺「ひとくち」
お互いのフラペチーノをひとくち交換して飲んで、俺の好きな音楽を流して家へ向かう。店ではこんなこと出来ないけど、それでも、二人きりの時間を邪魔されること考えたら、奏依といる時にファンに合わなくて良かったと心から安堵したなんて。ダサすぎて誰にも言えそうにない。