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リッツに炭酸飲料を買い与えてKnightsの出番まで人気の少ない木陰に身を隠すようにして溢れるメロディーを書き連ねていた。一応レイには連絡しておいたが心配なのは変わらない。リッツは大丈夫だと思うが、あんまり作曲に集中できていない。そのおかげか、いつもなら聞き逃していただろう近くでされていた会話に気づくことが出来た。
「ここならゆっくりお話が出来そうだと思わない?」
「…そうですね」
穏やかな雰囲気ではないのは感じ取れた。最初の声の主は分からなかったが、次に聞こえてきた声は聞き馴染みのある声だった。2人しかいないプロデュース科のやたらに目立つ方、魔法少女望月リンの声だ。誰も来ないと思っているのか、女はそれなりに大きな声で話していた。
「あんまりいい話ではないなー」
盗み聞きなんて趣味ではないが、最初にここにいたのはおれなのだ。それに下手に動いてあちらにバレてしまったらそれこそめんどくさい。リンには申し訳ないが会話が終わるまでここで大人しくしていよう。音を立てないように芝生に寝転ぶと女がリンの話を聞かずに一方的に語り始めた。その話は第三者であるおれが聞いた所、理不尽としか言えない内容で言いがかりに等しい。リンの対応がどこか慣れていると感じるのは、こういう場面に遭遇したのがこれが最初ではないからだろうか。
「あなたって本当に邪魔なのよ」
正直泣くかと思っていた。あんまり女子の事は分からないが、リンみたいなタイプは涙もろいかと思っていた。るかもそういうタイプだし。だけどリン俯いてはいるものの涙は溢さなかった。
「わたしにそんな事を言われてもどうしようもないです」
「ホント生意気なヤツ」
「すみません…」
女は何かをリンに投げつけたような音がした。音から推測するに小さいものだったようだが、あまりいい予感はしなかった。入る時に入り口で持ち物検査があるとはいえ、害を与える物なんてどこでも手に入れる事が出来るだろう。その後もリンに厳しい言葉を投げつけて笑みを溢しながら女は去って行った。
「(林檎でも齧って引っ込んでろとか酷い事言うなぁ)」
リンの着ている衣装が何の衣装だったのか分からなかったが、その言葉から白雪姫だろうというのが分かった。同じクラスの奴が用意してくれたんだと昨日か一昨日か嬉しそうに喋っていたな、そういえば。リンは暫く立ち尽くしていたが、ただ一言呟いてこの場を立ち去った。おれはリンが立ち去った後もその場に寝そべったままどうしたもんかと考えを巡らせるが、何もいい案が思いつかなかったし霊感も湧き上がって来なかった。
あんずに言うべきだろうか、お節介だろうか。そもそもここまで考えてやること自体がおれらしくないというか、でもまあ一応可愛がっている後輩だし放っておくのは何だか憚れる。ジャジメントの時に世話になった恩があるとはいえ、それをこの件でどう返せばいいのかわからない。
「もうホントにらしくない!!!」
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