37
12
望月リンちゃんは、プロデュース科唯一の後輩だ。普通科に在籍していたけど、酷いイジメ被害にあって転科させたと佐賀美先生に教えて貰った。出会った時から明るく可愛らしい子だったから、本当にこの子はイジメにあっていたのかと疑ってしまった。現に夏目君に「見ててあげて」と言われるまでその事を思い出すこともなかった。
彼女へのイジメは最初は無視から始まったそうだ。それから物が隠され教科書は引き裂かれ、机の上には『死亡』の文字と菊の花が飾られ、机や靴箱の中には生ゴミや動物の死骸、制服への落書きや登下校中には泥水をかけられた事もあるそうだ。これ程の事を5月6月の2ヶ月間でやられたそうだ。それでもリンちゃんは学校に毎日来ていたそうだ。そんな彼女を見かねた普通科の先生がプロデュース科の転科を勧めたけど、結局リンちゃんがプロデュース科に来たのは夏休みが終わりそうな8月だった。凄く悩んでの決断だったらしい。プロデュース科に来たくない理由でもあったのだろうか?私ならすぐに転科していたと思う。
「あんず先輩!」
「っ…、リンちゃん。ごめんボーっとしてたね」
「疲れてるんじゃないですか?あんず先輩働き過ぎですもん」
確かに疲れて居るのかもしれない。リンちゃんが近くに来てるのに全然気づかなかったし、このタイミングで休憩を取るのもありかもしれない。リンちゃんを誘って近くの空き教室に入って休憩することにした。
「リンちゃんはこのハロウィンがS1初めてだよね?今のところ大丈夫そう?」
「…S1ってこんなに人が集まるんですね!望月すごいビックリしちゃいました!」
「確かに人、すごいよね」
S1は校内の人だけじゃなくて外部の人達も来るから桁違いに人が集まる。だからリンちゃんをイジメていた人達が来て、リンちゃんと遭遇する率も高くなっているはず。夏目君のアレは、きっとそういう事を伝えていたと思うから。リンちゃんは唯一の後輩だし、私を慕ってくれている可愛い後輩。そんな子が傷つくなんて許せるはずがない。
「あんず先輩程じゃないですけど、やっぱり疲れちゃいますね」
少しだけ首を傾げて眉を下げて笑うリンちゃんに何の違和感もなく、碧の瞳はいつも通り綺麗な色をしていた。だから、この時の私はもう既にリンちゃんが件のいじめっ子に会っていたなんて思いもしなかったのだ。
「そうだ。今度のお休み、お疲れ様会って事で駅前のカフェに一緒に行こうか。そこのアップルパイが美味しいんだよ」
「あんず先輩と一緒なら何でも美味しくなります!」
「リンちゃんってば、羽風先輩みたいな事言ってるよ」
こんなに明るく可愛らしい彼女が何でイジメられていたのだろうか。私はそれを聞く勇気はなかった。
PREV BACK NEXT