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小学校の頃、とも君の家族と一緒に遊園地に行った事がある。たまたまその日にアイドルのライブが開催されていて、沢山の人をステージの上のたった3人だけで盛り上げていた。とも君と一緒にそのアイドルの曲を1曲だけ聞いて、その日は遊園地を満喫した。家に帰ってからお兄ちゃんに3人組のアイドルの事を伝えると、「リンも可愛いから世界一のアイドルになれるよ!」と今と変わらない調子で言ってくれたのだ。それからすぐに魔法少女にも出会い(画面越しに)、可愛い衣装を着て戦う彼女にも憧れた。だから私は魔法少女みたいなアイドルになりたかった。キラキラの魔法を使って皆の平和を守る彼女達のようなアイドルに。
だけど出る杭は打たれるのだ。
元々お兄ちゃんがカッコよかったから女の上級生からの嫌味とかちょっとした嫌がらせはあった。それが、アイドルになりたいと言い始めた頃から悪化したのだ。とも君が庇ってくれたこともある。だけど、それは6年生まで続いたから、私は少し離れた中学校に入学した。とも君も一緒が良かったけど、とも君は普通に地元の中学校に通うと言っていた。それから私は魔法少女もアイドルも諦めて、普通に過ごした。あんまり目立たないように、目を付けられないように。


「望月さんは将来の夢を諦めなくてもいいんですよ」


中学3年生の時に担任の先生に言われた言葉。お兄ちゃんととも君が応援してくれた夢を、先生も応援してくれた。その日から私の夢はまた魔法少女みたいなアイドルになった。クラスメイトも応援してくれた。デビューしたらCD買うからサインしてね、なんて言ってくれた。それがホントに嬉しかった。だから高校はアイドル科のある学校にしようと思った。だけど、女性アイドル科には受からなかった。だからとも君が通うという夢ノ咲学院の普通科に通うことにした。でもそこでまた私は目立ってしまったのだ。それだけじゃなくてお兄ちゃんの事が好きな子がクラスメイトにいたのだ。高校のイジメは、小学校の頃の比じゃなくて、何度もびしょ濡れで帰った事があるし、教科書は入学して1ヶ月しか経ってないのに2回は買い換えた。お母さんも流石に転校しましょうか、って言ってくれたけど私はもう少し頑張ると笑った。

だけど、イジメは日に日にエスカレートしていって、そして運命の日が来たのだ。


「望月リンちゃん、だよね?こんにちは、私はプロデュース科の浅桜あさくらあんずです」


あんず先輩に会う前から転科しないかと担任の先生から提案されていたんだけど、その転科先が来年本格始動するプロデュース科のテストケースの2人目という事だった。プロデュース科に転科してしまったら、私がアイドルのプロデュースをするっていう事になる。それって、私はアイドルにはなれないって事じゃないか。それでも先生達は転科を薦めて来るし、お母さんもお兄ちゃんも心配しているし、さすがにもう疲れちゃったから夏休みに転科を決めた。


「こんにちは、望月リンです」
「よろしくね、リンちゃん。後輩が出来てすごく嬉しい」


あんず先輩と初めての挨拶をしたのは、放課後の普通科の職員室だった。第一印象は、気は強くなさそうだなって少しだけホッとした。それからプロデュース科についてどんな事をしているのかとか、アイドル科の人達はいい人達ばかりだとか、校舎が広くて迷ってしまいそうになるとか、そんな話をした。あんず先輩の方がたくさん喋っていて会話というより本当に説明みたいな感じだったけど。それから校門まで一緒に帰る事になって、どこか気まずい雰囲気もあって私はとりあえず口を開いた。


「アイドルはどんな人達ですか?」


革命を起こしたアイドルと一緒にいたあんず先輩に、アイドルを聞いてみたかった。キラキラな魔法を使うアイドル、私の憧れたあの3人の女の子のようなアイドル。そんなアイドルはいるのかな。


「うーんと、普段は本当に普通の高校生なんだけどね、ユニット衣装を着てステージに立つとキラキラのアイドルになるんだよ」
「……」
「心から楽しんでいるのが私にも伝わって来るの。でもそれはちゃんとレッスンをして努力しているから完成する」


目を閉じるあんず先輩の瞼にはきっと、鮮明にその[アイドル]が浮かんでいるんだろう。あんず先輩にとって、それは憧れではないのかもしれないけど、そのアイドルを思い浮かべる表情は、私のそれに少し似ていた。


「私はその"努力を見せない姿"を尊敬しているの」


ああ、この人は私と一緒だ。一緒だけど、私とこの人とでは決定的に違うことがある。


「ねえ、リンちゃん。私と一緒にアイドルをプロデュースしてみない?」


私は、プロデュース科に転科した。アイドルを諦めた訳では無い。私はあんず先輩の近くでアイドルを勉強しよう。折角プロデュース科に転科したのだから、そこで学べるものを私の糧にしていこう。あんず先輩はきっと私を助けてくれるヒーローなんだ。親身になってプロデュースの事を教えてくれるあんず先輩には申し訳ないけど、私はこのプロデュースの知識を活かして、有名なアイドルになるんだ。


「アンタはいつもそうだ……」
「ぇ……、」


彼女は顔を歪めて俯いたと思ったら、私の腕を掴んで何処かに歩き出した。私はとも君が待ってるからもう帰りたかったんだけど、彼女の力が思ったよりも強くて振り払おうとしても全然ダメだった。



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