透過好感

あれから私とシンクの奇妙な共同生活は始まったのだけれど、シンクとは必要最低限の会話しかしていない。洗濯もそれぞれ別々に自分でやるし、料理は調理器具も無いから結局それぞれ食堂を利用している。生活リズムとしてはひとりの時と何も変わっていない気がする。鍛錬だって一緒の場所で一応はやってはいるけれど、組手をしたりすることもないし、ましてや連携技をしてみたりなんかもしていないから、ただ鍛錬場所が同じだけだ。

「最近エルナ機嫌いつにも増して悪いよね」
「…別に、いつも通りでしょ」
「アニスちゃんの目を誤魔化せると思わないでよね!」

食堂で昼食を食べていたら、ローレライ教団の士官学校通いながら導師守護役見習いをしているアニスに捕まった。アニスは私の数少ない友達と言える人だ。年が近い同性という事でアニスから声をかけて来たのがキッカケで、食堂で見かけたときは一緒の席に座る事が増えていき今では休みの日に出かける事もある。まぁ、お互いお金がないからショッピングなんかはしないけど。

「総長に協調性がなさすぎるって言われて、師団長にも同じような事言われてイライラしてるの」
「あー、確かにエルナって協調性ないよねー」
「仲良くする意味がないでしょ。おっさんどもと」

それは一理あるけどね、と苦笑いを浮かべるアニスだけど、アニスは世渡りは上手いから相手がおっさんでも一応猫を被るんだろうな。お金持ちなら尚のこと。でも私が仲良くしろと言われてるのは同い年のシンクなんだけれどね。シンクと仲良くしろと言われてるなんて言うと、アニスは変に探ろうとするだろうから言わないでおこうと思う。どうせいつかはシンクの事知られるんだから、今は平穏を楽しもう。

「そういえばアニスさ、導師守護役になりたいって言ってたじゃん」
「え、何急に。…そうだよ、導師の近くってお金持ちが多いから玉の輿狙えるし」
「導師ってエベノスじゃなくなったんだね?私まだ導師エベノスだと思ってたんだよね」
「教団所属の騎士団員としてそれどうなの?」
「それ総長にも言われた」

実際アニスは私より年下なのに、しっかりしている。アニスの両親は預言信者で生活費を預言に回してしまうらしく、なかなか苦労しているみたい。両親の借金を大詠師モースに肩代わりしてもらっているけれど、それでも預言に費やすのを止めないんだとか。そんな両親がいるより、私みたいに親無しの方がまだ恵まれている気もする。好き勝手出来るしね。

「アタシも導師に実際会ったことは無いけど、優しい人みたいだよ。噂だけどね」
「ふーん、興味があるわけでは無いんだけど、情報をありがとう」
「預言アンチはいずれ刺されるんだから、興味ある振りでもしなよ…」

導師の見た目は知ってるんだけど、シンクとは性格まで一緒っていうわけではないのか。レプリカっていうから何もかもコピーされた存在なのかと思っていた。あんな生意気なのが導師なんてありえないか。そうだよね、うんうん、と一人で納得して頷いていたらアニスに変なものを見る目で見られていた。なんだよ、頷くくらいいいだろ。アニスが玉の輿狙って猫被ってる時の方がヤバいと思うけどね。そんな事言ったら怒るだろうから言わないけど。

「もう少し上手く振る舞わないとホントに刺されるからね!」
「わかったてば。みんなしてホントにうるさい」
「アタシはエルナのことを思って言ってるんだから!」
「アニスにまで言われるなんて……」

結局みんな仲良くしろって言うんだな。だいぶ前に食べ終わっていた食器を持って席を立つ。そういえば総長に午後から特別訓練をするから来いと言われていたのを思い出した。スリをしていた頃からヴァンは何かと気にかけてくれて、今でもたまに稽古と称して私の相手をしてくれる。その期待に応える為にも私は強くならないといけない。

「私は行くよ。アニスはまだ休憩でしょ?」
「うん。アタシはまだのんびりしてるよ」
「んじゃ、またね」

食器を返却口に返してからヴァンに指定された場所に向かう前に、師団長に所に向かう。ヴァンに稽古をつけてもらう時は一応師団長に報告してから行っている。サボってると難癖つけられるのも面倒だし。いつも通りに執務室にいた師団長に総長と稽古しますと一言報告して「わかった。頑張っておいで」と微笑まれるまでがテンプレートになっている。今回も特に何も言われずに総長によろしくと言って解放される。

「ちょっとアンタ遅すぎ」
「なんでシンクがここにいるの」
「ヴァンがアンタが来ないと始めないって。遅いから迎えに行って来いって追い出されたんだよ」

執務室を出てからすぐにシンクが不機嫌丸出しで歩いて来た。ていうかシンクと一緒に稽古するなんて聞いてないんだけど。シンクの戦闘スタイルがどういうものか知らないけど、ヴァンはとことん私とシンクの面倒を一緒に見ようとしてるわけね。そのうち任務も一緒に行かされるかもしれない。

「それはゴクロウサマ。わざわざ迎えに来てくれるなんて本当サイコー」
「ボクに当たるのやめてよね」

シンクと合流したものの、隣を仲良く歩くなんて事はせずに一定の距離を保って目的地に向かった。遠くはないはずなのに、2人とも無言だったからかすごく長い時間かかったような気がした。

「来たか。早速だが準備運動をしておくように」

待ち構えていたヴァンは私達が入ってきたことを確認すると、私達と入れ違いに部屋から出て行ってしまった。こんな事はよくある事だから今回も反発することなく、言われた通りに準備運動をしておく。只でさえ食後なんだから、ちゃんとしておいた方がいいだろう。柱を使ってストレッチしていると、シンクが壁際でストレッチをしているのが目に入った。

「…シンク体硬すぎじゃない?」
「……うるさい。自覚してるから放っといて」
「そういうのって他人に押してもらった方が柔らかくなったりするものだよ」
「いい、ボク1人で大丈夫だから。ボクに触らないでよ」

背中を押してあげようと思って近くと、俊敏な動きで離れて思いっきり拒否された。カラダが硬いなんて、戦闘において確実に不利になるだろうから手段なんて選んでる暇ないと思うんだけど、でも信頼してない相手に触れさせないのは当たり前か。

「そんなに一生懸命逃げなくても何もしないから安心していいよ」
「アンタってホント嫌味な奴」
「シンクも大概だと思うけど、ありがとう」

別に仲良しこよしをしたいわけじゃないから優しくして見せる事もないじゃない。それに私はアニスみたいに猫を被るのは苦手だし、それは私だけじゃなくシンクもそうだと思うけど。そんな会話をしながらストレッチをしていると用事を終えたヴァンが戻って来た。

「すまない、待たせたな」
「エルナを待ってた時より早かったから全然平気」
「お待たせして申し訳ないですねえ」
「ホントだよ反省して」
「何こいつ腹立つ」
「やめないか2人とも」

ヴァンが仲裁して取っ組み合いの喧嘩にはならなかったけど、私やっぱりシンクと合わないと思う。





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