04

 ◇

「おいアンタァァァ!!」
 特徴的な白髪頭に黒の着流しを見つけた新八は、走って来た勢いのまま殴り掛かった。が、それも男の片手で軽くあしらわれてしまう。
 男は新八が先の騒動に巻き込まれた青年であると気づいたようだ。気安く話し掛けてきた。
「律儀な子だな、木刀返しに来てくれたの」
「違うわァァ!! 役人からやっとこさ逃げてきたんだよ!! よくも人を身代わりにしてくれたなコノヤロー!!」
 闇雲に木刀を振り回すも、全て空振りに終わる。徒労感だけが募る。
「おれはついさっき上京して来たばかりなんですよ。そんな幼気な若者を身代わりにして悪いとは思わないんですか!?」
「知らねーよンなこたァ」男の声音は氷よりも冷たい。昇り立つ気迫に新八は気圧され、黙る他なかった。「俺は天人が嫌い。それだけのこった」
 天人が嫌い――そう語る彼の語調には、確かに嫌悪感が滲んでいた。でも、ここで引き退る訳にはいかない。こちらには生活が懸かっているのだ。
「で、でも、おれこれからどうすれば……折角ツテで上京出来たのに、いきなり前科者なんて嫌ですよ!」
「そういう運命だったってことよ。諦めて受け容れな」
「アンタが言うなァ!」
 取りつく島もない男に目を剥いて突っ込んだその時。
「おおい、トシ」
「近藤さん」
 見知らぬ男が声を掛けてきた。白髪頭は幾分か表情を和らげてそちらを見た。
 歳の頃は三十路過ぎだろうか。サッパリとした短髪に、顎髭にグラサンがトレードマークの壮年。がっしりとした体格から、武道に優れていると窺える。
 近藤と呼ばれた男はしげしげと新八を眺めた。
「お? トシ、その子は」
「可哀想な孤児みなしごだとよ」
「だから、誰のせいだと……」
 すかさず新八が噛みつくと、近藤は「成程」と頷いて、こう提案した。
「おし解った。それなら俺についてて来るといい」
 状況が飲み込めず戸惑う新八の肩を抱いて、近藤はどんどんと進んで行く。
「物好きだねェ」
 白髪頭が苦笑した。