05

 ◇

「着いた。ここよ」
「ここは……?」
 新八の目の前には古びた道場があった。看板には『試衛館』の文字。
「俺達の住まいさ。お前みてェな無頼者が集まる溜まり場よ」
「はあ」
 未だに状況が理解出来ず気のない返事を返す新八に、近藤は言った。
「試衛館へようこそ、少年」
 歓迎のムードを醸し出しているが、「ちょ、待ってください!」新八は慌ててそれを制した。
「違うんです、おれ、武者修行のために田舎から上京して来て……」
 事情を掻い摘んで説明すると、近藤は「ふむ」と顎を摘んだ。
「田舎から上京したばかりの若者が天人に嵌められた挙句傷害事件の容疑者扱いか。トシ、お前なぁ、こんな純情な少年をテメェの喧嘩に巻き込むなよ」
「向こうが勝手に巻き込まれただけだっつの」
 苦笑を禁じ得ない近藤に、男はしれっと言ってのけた。新八の頬が引き攣る。
「君……永倉君と言ったか。俺がその知り合いの道場に一報入れてみようか。きちんと事情を説明してな。それなら君も安心して修行に打ち込めるだろ」
 近藤の提案に、新八は目を輝かせた。
「いっ、いいんですか!?」
「おう。これでも交友関係は広くてね。知り合いを虱潰しに探してきゃあ、その内辿り着くだろうよ。それに、ウチの門下生が迷惑掛けた迷惑料と思ってくれ」
 我関せずといった態度を崩さぬ男を横目で見つつ、近藤はウインクした。グラサンの向こう側なのでよく判らないが、多分ウインクをしたのだろう。
「あっ、ありがとうございます!!」
 新八は勢いよく頭を下げた。白髪頭はロクでなしだが、江戸にもまだ人情を持つ人が残っていた様だ。一気に安堵が押し寄せ、脱力する。
「ああ、紹介遅れたな。俺は近藤勇。アレは土方歳三ってんだ。短い間だがよろしく頼むよ」
「はい!」
 新八が意気込んで返事したその時だった。
「何の騒ぎですか」
 淡々と、しかし凛と通る声が耳に届いた。声の主を振り返り、新八の目は釘付けになった。
 そこには新八と同年代の美少年が立っていた。白磁の如く透明感のある白い肌。絹糸のように溢れる亜麻色の髪は一つに結い上げている。長い睫毛に縁取られたビー玉の瞳。道着に包まれた華奢な身体。形成する一つ一つのパーツ、どれをとっても美しく、精巧な人形を思わせた。
ふさか。いや、それがな……」
 新八が見惚れている間に、近藤が事情を説明する。総と呼ばれた少年は「ふーん」と面白くなさそうな相槌を打った。
「じゃあ、強いの」
「へ?」
 いきなり総に見つめられ、新八はドキリとした。総は新八の動揺など気にも留めず、挑戦的な視線を向けて提案してきた。
「アンタ。武者修行にわざわざ上京しに来た位なら、強いんでしょ。じゃあ勝負してよ」
 突然の展開に戸惑う新八に、「気ィ付けろよー、新八君」と土方が笑いを噛み殺した声で忠告した。
「ソイツ超強いから。ウチの道場一の腕前だぜ。見惚れてると、あっさりやられるよ」
 土方と紹介されたこの男の一言は、一々腹が立つ。新八の闘争心に簡単に火を点けた。
「やってやりますよ。言っておくけど、おれだって手加減しませんからね」
 宣言した新八を満足げに見やると、総は「道場はこっち」と踵を返した。新八もその後に続く。その血気盛んな後ろ姿を見送りながら、近藤は溜息を溢した。
「あーもー、トシも総も、何でこう嗾けるかな」
「いいんだ、近藤さん。井の中の蛙にゃあ、早めに都会の洗礼を受けさせた方がいいだろ」
「お前なぁ……その割には面白がってるだろう」
 近藤の指摘に、土方は口角を吊り上げて笑った。
「好きなんだよ、ああいう血気盛んで向こう見ずな若者ってな」