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「御用改めである! 真選組だ!」
 現場に到着するなり、永倉は拡声器でボリュームアップさせた声を室内に投げた。十番隊が野次馬を遠ざけたおかげで、吉野屋に面した道路は広く感じる。
「貴様らの要求は何だ?」
 問いに、向こうも拡声器を使ったのか、機械越しの声が答える。
「貴様らに捕縛された仲間の釈放だ。忘れたとは言わせぬ」
 犯人グループは先日検挙した過激派攘夷浪士の名を挙げた。
「仲間を釈放するならば、人質は無傷で解放しよう。要求を呑まない場合、人質の命はない」
 か弱き者の生殺与奪を握った暴君による死刑宣告。こちらの出方次第で刑は簡単に執行されてしまう。永倉を嫌なプレッシャーが襲う。
 押し黙る永倉に代わり、近藤が答えた。
「わかった。尽力しよう。今、留置場と交渉してみよう」
「交渉だけでは駄目だ! すぐに釈放させねば、今すぐ人質を殺すぞ!」
 近藤も眉を顰め、唇を強く噛んだ。相手は聞く耳を全く持たない。これでは突入のための時間を稼げない。
「……わかった。人命第一だ。釈放を約束しよう。永倉、留置場に電話してくれ」
 感情を押し殺した近藤の宣言に、相手は機嫌良く鼻を鳴らす。永倉が携帯を取り出した、その時だった。
「がっ……」
 呻き声が聞こえたと思えば、機械の悲鳴のようなノイズ音が耳を劈く。それらも次にはぶつりと途切れ、無音が訪れる。
「やれやれ。何とかうまく行けたみたいだな」
 苦い表情をしていた近藤は顔の筋肉を緩め、煙草を咥えて火を点けた。という事は、裏から侵入した一番隊が犯人グループと接触したのだ。
「大丈夫なんですかね」
 永倉の鼓動が早鐘を撞く。不安が肺に重く沈み、息苦しい。しかし対称的な近藤は呑気に言う。
「犯人の声ももう聞こえてこないし、大丈夫だろ」
「そういう問題なんですか……?」
 近藤も土方も無条件で沖田を信頼している。それは付き合いの長さが成せる業なのか。だとしたら、自分はあとどれ位彼らと付き合えば解るだろうか。
「局長!」
 考え込む永倉の思考を、近藤を呼ぶ声が邪魔した。俯けた視線を上げると、返り血に塗れた一番隊の隊士が敬礼していた。
「人質、無事全員保護しました」
「おお、よくやった! 怪我は無いな」
「はっ。精神面は不安定ですが、掠り傷一つ負わせてません」
「そうか。何よりだ」
 近藤は心底安堵した表情で息を深く吐き出した。
 永倉も安堵すると共に、現場から引き揚げる一番隊隊士の中に隊長である沖田の姿が見えないことに気付いた。
 再び永倉の背筋を悪寒が這い上がる。言い知れぬ恐怖と焦燥に、身体は勝手に動いていた。
「おれ、現場見てきます!」
 彼女の無事を祈りながら、焦るあまり縺れる足を必死に動かした。