03

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 三番隊と共に裏口で待機していた土方は、建物から悲鳴と怒号が聞こえなくなったのを確認すると、後の指揮は斎藤に任せて内部に侵入した。
 一番隊は任務を無事遂行したようだ。既に人質は全員救出されており、建物内には静寂と死の気配が立ち込める。
 点在する骸を避けながら、勘を頼りに奥へと進む。主犯格が立て篭っていたのは奥の部屋だ。近づくにつれ、生きた人間の気配が色濃く伝わる。
 目指す場所へ到着した土方は、乱闘のおかげで開けた室内をぐるりと見渡す。
 押入れの、襖の影。土方の嗅覚はそこに見当をつける。ひょいと覗き込めば、やはりそこには人影がちんまりと蹲っていた。
「見ィつけた」
 それは沖田だった。白い面に飛び散った血を拭いもせず、億劫そうにこちらを見上げた。
「なァんだ、土方さんか」
「何だじゃねェよ。ぱっつぁんが心配してたぜ? お前が死ぬつもりなんじゃねェかってよ」
「何それ? 失礼しちゃうな」
「アイツ曰く、お前は猫なんだそうだ」
 失笑を漏らす沖田に、土方もにやりと口元を歪める。
「手前に相応しい死に場所見つけたら、もう娑婆に戻るつもりは毛頭ない――アイツにそう見られてるみたいだぜ」
「確かにそれは当たってるかも。アイツ、なかなか鋭いなあ」
「それ、ぱっつぁんの前で言うなよ。泣かれるぜ」
「そいつァ面倒ですね」
 土方は思う。永倉の言う通り、彼女は猫だ。気高くプライドの高い獣。弱味を決して他人に見せないし、悟らせない。それが例え身内であろうとも。
 何が彼女をそこまでさせるのかは判らない。或いは、持って生まれた戦士としての本能なのかもしれない。
「ま、とりあえず近藤さんの所に戻ろうぜ。ぱっつぁんもだが、あの人も相当心配してるだろうしな」
「あー、近藤さん、心配性通り越して心配病だもんなあ」
「そりゃあ俺やお前含め、無茶する部下ばっかだかんなァ」
 土方は沖田の左腕を強く掴む。沖田は「イテッ」と呻いた。
「部下と一緒に降りて来なかったのは、これが原因だろ」
 彼女の隊服の左腕は、返り血とは異なる血液で赤黒く染まっていた。
 沖田は悪戯がバレた幼子のように唇を尖らせた。
「ちえー、バレちった」
「俺相手に誤魔化せると思うなよ。こう見えて人一倍鼻は効くんだ」
 鼻を膨らませ自信たっぷりに言えば、沖田は拗ねた表情でこちらを睨んだ。
 その時、「沖田さーん! 無事ですかあーッ」と焦りを浮かべた永倉の声が聞こえた。
「ありゃま。我慢出来なくて様子見に来たみてーだな。そろそろ行くぞ」
 促す土方に沖田も従って立ち上がる。すぐに動き始めるかと思いきや、
「ねえ、土方さん知ってます? 猫って死ぬ前に人前から姿を消すんですけど、それは死んだ姿を見せて悲しませたくないからじゃなくて、安全な場所で身体を休めて、不調を回復させるためなんですって。しばらく安息して、元気になったら元の場所に戻るつもりなんでしょうね」
 だから、ボクも勝手にいなくなる真似はしませんよ。沖田は笑う。
 だが、死は確実に小さな獣を蝕んでおり、元の場所に帰ることは二度とない。そんなのはあんまりではないか。
 精々手遅れになる前に見つけ出してやろう、と密かに誓った。