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神ヶ谷吊文はその日も図書館に居座っていた。二回目の大学三年生なんてとるべき単位は片手で数えるほどしかなく、暇な時間はもっぱらこうして図書館で本と戯れる毎日だ。これがなかなかどうして面白くて、留年した時はおばあちゃんにこっぴどく叱られたものだけれど、悪いことばかりではないな、なんて思っていた。
そんなふうにして図書館生活を悠々自適に送る神ヶ谷吊の前に、今、一人の男がいた。小柄な青年であるが、顔つきやら此処にいることやら考えると恐らくは同年代だ。この大学付きの図書館には学生証がないと入れないし、この日本に飛び級という制度は存在しない。
背伸びをして手をめいっぱいに伸ばしている。その様子を見る限り彼の望みは一つしかないだろう。立ち上がる。神ヶ谷吊の身長は高い方である、きっと彼の助けになれるだろう。正直、目の前でぷるぷるされているのにはクるものがあるので早いところどうにかしたい。そういう訳で、彼の手の先、『なぜ、「白雪姫」は毒リンゴを食べたのか』に手を伸ばした。その瞬間。
彼は、飛んだ。
いやいやいや、誤変換だ。飛んだ、ではなく跳んだ。伸ばしていた手はそのままに、軽く膝を曲げてそりゃもう軽そうに。ぴょん、より軽やかに、ふわり、より軽快に。
「えええ」
そんなびっくりしたものを目の前で見てしまった神ヶ谷吊が、うっかり声を上げてしまうのも仕方ないことで。
小柄な青年がぐるりと振り返る。その手には『なぜ、「白雪姫」は毒リンゴを食べたのか』。無事にとれたようで何よりだ。
「もしかして、この本が必要なのか」
「あ、いえ、別にそういうことは。ただ困ってるようだったから手伝おうかと思って来たんだけど…不要だったみたいだねえ」
運動神経の良い人間というのは存在するものだなあ、とまじまじを見つめる。
それが、神ヶ谷吊文と風間蒼也の出逢い、ってやつだった。
ファースト・コンタクト
デフォルトネーム読み方
神ヶ谷吊文(かみがやつりふみ)(ドラッグ表示)
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