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戻ると尾形さんは大人しく待っていた。遅い、とも言われない。しかしこの人、僕が誰かに尾形さんが脱走しようとしてますよ、とか言うとは考えなかったのだろうか。よく分からない。
「尾形さん、」
「良いから来い」
目的は聞かせない、とばかりに腕を掴まれる。痛い。ひと目を憚りながら僕たちは病院を抜け出し、町へと出て行く。
「何処、行くんですか…」
「そうだな、遠いところ、とでも言っておくか」
「…それは、まさか、軍を、」
「アンタが此処で着いてくればそうはならんだろうな」
これはなかなかにひどい脅しだ。というかこれが脅しになると思って言う尾形さんはとんでもなく傲慢だと思う。
「本気で言ってるんですか」
「嘘だと思うかね」
「…まさか」
嘘でそんなことを言う理由がない。でも、僕を巻き込む理由も見つからない。
「人質にすらならないじゃないですか」
一瞬、尾形さんが言葉に詰まった。それで僕はやっと、あ、と思う。
「アンタを向こうに残しておく方が不安だ」
「おっ、熱烈な告白ですか?」
なんだ、そういうことだったのだ。
「思ってもいないことを口にするな」
尾形さんだって思ってもいないことを口にすることは往々にしてあるだろうに、それを僕だけに強いるのは不公平というものではないのだろうか。
「アンタ、患者が完治せずに逃げ出すのを許さんだろう」
「ええ、まあ」
「俺が逃げ出したら相乗効果で地の果てまで追ってきそうだ」
「いや、流石にそこまでは」
しませんよ、と良い掛けてじろり、と睨まれた。まさかそんな反応をされるとは思っていなかったのでまごついてしまう。
「ええと…その………すると、思いますけど…」
尾形さんはふん、と鼻を鳴らす。まるで正直でよろしい、と言わんばかりである。いや流石に僕だってそんなことはしない。尾形さんの身体のことは勿論心配だし、脱走なんかされたらそりゃ怒るだろうけど、見つからなかったら見つからなかったで僕だって諦めるという頭は持っている。元々これだけ探して見つからなかったら、と最初に決めるようにはしているのだ。脱走患者にかまけて本業を疎かにしてはいけない。尾形さんは僕のことを一体何だと思っているのだろうか。
「ていうか患者っていう自覚あったんですか」
あまりに傲岸な振る舞いにちょっとした謹慎処分でも受けているつもりなのかと思っていたくらいだ。いや、謹慎処分だってもうちょっと神妙にすべきだと思う。
「あるに決まっているだろう」
尾形さんは何を言い出すのか、と言わんばかりの顔でこちらを見た。
「センセーがいるんだから」
その言葉に思うことがない訳ではなかったけれど、もう突っ込むのも疲れてしまって僕はそうですか、としか返せなかった。
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