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 尾形さんがやっとのことで足を止めたのは隣の隣の町だった。結構歩かされた。僕は医者だったから一応どうにかなったものの、一応一般人の部類であることを尾形さんは忘れているんじゃないだろうか。宿を一つ選ぶと尾形さんは懐からお金を取り出した。尾形さんがお金を出すところなんて別に珍しくもないが、今までに見た中で一番の大金だったように思う。
「此処で待っていろ」
「待っていろって、尾形さんが戻ってくる確証なんてなんにもないじゃないですか」
というか、これを持ち逃げするとか思わないのだろうか。尾形さんは別に僕を信頼している訳でも信用している訳でもないはずなのに、どうして僕が逃げないと確信出来るのか。僕が尾形さんを好きだと言ったから、ではないと思った。なのに尾形さんはこうして僕を疑わない。そして僕も結局、どうして、と思うだけに留まってしまう。
「………三日だ」
尾形さんは暫く考えたあとにそう呟いた。
「三日、俺が戻らなかったら追って来て良い」
偉そうだ。追って来て良いとは何様だろうか。その場合追う羽目になるのは僕だし、そもそも三日も待たせるつもりとは恐れ入る。その間僕に病院に戻るなと言っているのだ、尾形さんは。もし大事件でも起こったらどうするつもりなのだろう。
 僕の言いたいことが分かったのか、それとも最初から予想していたのか、尾形さんは付け足す。
「今日の午後、お偉いさんが来るんだろう」
「お偉いさんて…教授とか軍医とか、まあ一団が来ますけど」
「なら人手は困らないんじゃないのか」
そこまで考えての行動なのか。目眩がしそうだ。でも、何をしようとしているのかなんて聞かない方が良いに決まっている。一時でも軍から離れないと出来ないことなんて、聞かない方が絶対に良い。
 と、思っていたのに。
「もし俺を見つけるよりも先に鶴見中尉殿に見つかったら、訓練中に逃げ出した俺を探してると言え」
「尾形さん」
結局手のひら返しを強要された。ああ、そうだ、これは強要である。それに引っかかってしまった僕も僕だが。
「何をしようとしているんです?」
鶴見さんと敵対するようなことなのか。
 尾形さんは少し迷ってから、じっと僕の眼を見た。
「………アンタはまだ、知らん方が良い」
「だから、」
「鶴見中尉は誤魔化せない。だからアンタは何も知らないままでいろ」
何だ、それは、と思ったけれども僕がそれを言葉にする前に尾形さんは行ってしまった。


















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