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その日の夜。明日どうするかということを考えながら風呂に浸かっていたら長風呂になってしまった。どちらにするにしても明日は此処を早く出るべきだ。なら、寝る前に荷物をすべてまとめておく方が良い。そう思って足早に部屋へと戻ると、誰かに口を塞がれた。
「ぐっ」
「俺だ」
暴れようとした僕に下手人から声が掛かる。
尾形さんだった。手が外される。何で口を塞がれたんだろうか。
「見つかってないか?」
「僕に監視を察知するだけの能力があると思っていますか?」
「思っていない」
即答だった。ならば何故聞いた、と思う。
控えめに言って満身創痍、というのはきっと僕が医者だから分かったことかもしれない。触れることはしなかった。何処に怪我があるのか分からない。とりあえず、応急処置をしなければ、と思ったのに、口から出たのは違う言葉だった。
「…ちゃんと戻って来たんですね」
「戻って来ないと思ってたのか」
「期限ギリギリですよ。思わない方が可笑しいでしょう」
怪我しているんでしょう、処置しますよ、と荷物を出しながら僕は呟く。
「お帰りなさい」
言うと尾形さんは少しだけびっくりしたような顔をした。僕はそれを無視して続ける。
「ちなみに僕のこの二日とちょっとの動きですが、一応、聞き込みしたり地図を見たり、尾形さんの似顔絵を書いてみたりとかしてたんで、あ、あとこの辺の病院もあちこち回ってみました。なので、監視がついててもそれっぽい行動は出来たんじゃないかな…と思うんですけど」
「…アンタ、患者が脱走する度に毎回そんなことしてんのか」
「そもそも普通、患者さんは脱走しないものなんですけど」
僕の正論も正論に尾形さんは流石に黙りこくった。今度は何処を怪我したんですか、と問えば多分腹だ、と言われる。じゃあ服脱いでください、と言うと素直に脱がれた。忘れている訳ではないのだろう、でも僕がちゃんと医者として仕事をしている時だと、分かっている。まあ人間の裸体なんて見慣れているようなものだし。大抵それは死体だったりするのだけれど。
「…撃たれたんですか」
「よく分かったな」
「折れてないのが奇跡です。何かで防いだんですか」
「双眼鏡が犠牲になってくれた」
どういう状況でそんなことになったのか分からなかったけれど、僕はもう首を突っ込まないことにした。どうせ尾形さんはまだ僕に、何を言うこともしないだろうから。
治療が済むと、尾形さんはそれを見て、センセーがいれば困ることはないな、とだけ言った。もしかしてこの人、僕が着いて行かないと言い出すことをまったく考えてないんじゃないのか。僕だって一応あれこれ考えてたと言うのに、それを見ていたら悩んでいたのが馬鹿らしくなってしまった。
「少しだけ…寝る」
治療が終わったことで緊張の糸が緩んだのか、尾形さんはうつら、と瞼を重そうに瞬(しばたた)かせた。
「二時間で起こしてくれ」
「起きたらどうするんです」
「移動する。だからアンタも寝ておけ」
尾形さんは言うべきことは言ったとばかりに布団に突っ伏した。ご丁寧に半分空けられている。これはどうするべきか、と少し悩んだ。荷物を整理しながら考えた結果、明日からどうせものすごく移動することになるのだろう、と予想されたので空けられた半分をありがたく使うことにした。布団を出来るだけ尾形さんの方に分けてやる。一体何処で何をして来たのかは分からなかったけれど、何だかとても疲れているように見えたから。
二時間、二時間、と頭に刻み付けて、秒を三つ数えてから眠りに就く。どうしてか、いつもこうするときっかり決めた時間に目を覚ますことが出来るのだった。隣に尾形さんがいるという事実は、面倒なので忘れることにした。
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