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お通夜のような様相で鹿肉を齧っている間に尾形さんは少し席を外して戻ってきた。どうやら僕はゆっくり食事をしていいとなると、するしかないとなるとものすごく遅くなるらしい。これは新発見だった。食事の速度は決められていたようなものだったし、医者になってからは時間勝負だったし、こうして自分の意思で速度を決めるのは初めてだったかもしれない。別にやってみたかった訳じゃあないが(だって僕は医者になりたくて医者になったので)、初めてそんな機会を担いで来たのが尾形さんだというのは少し、意外だったな、と思う。
「随分味わって食べるんだな」
「僕も初めて知りました」
僕の言葉に尾形さんは不思議そうな顔をしたので、医者がどれだけ多忙であるかを僕は掻い摘んで尾形さんに話した。
「…センセーだって、医者じゃあなかった時があるだろう」
「学生だった頃は勉強をしていましたし、その間に遊び回るとなるとやっぱり食事は早く済ませてましたね」
だから、こんなゆっくり食べてる僕を見るのはきっと尾形さんが初めてですね、と。そんなふうに続けると尾形さんは少しだけ目を見開いた。こういうところは本当に素直なのだよな、と思う。
尾形さんの中で、一体僕はどんな人間なのだろう。こうして連れ出されたこともそうだけれど、そもそも僕が尾形さんのことを好きだと思っていることについて、尾形さんはどう思っているのか。そこが今後一番の課題だな、と僕は思っていた。僕という一個人の話ではなく、僕という医者にとっての話である。
やはり、僕は僕である前に僕という医者なのだろう。伊佐早順玲を語るにあたって、医者という要素はどうしたって外せないのだ。多分、尾形さんから銃を奪えないように。それは自己の確立要素なのであろう。ああそうだ、尾形さんの銃のことも、いつか聞かなければならないのだろう、と思っていた。聞きたい訳ではないのだろうな、と僕は思う。自分のことなのに他人事のように。僕は好きなひとのことを全部知りたいだなんて思わない。けれども医者は患者さんのことを全部知っていないとならない。後者については僕が勝手に思っていることだったけれども、やっぱり今までの経験から考えると知っていた方がずっと良いのだ。しかし、尾形さんは話してくれるだろうか。ただの僕が上辺だけ見た図でも、結構面倒なひとだった。入り組んでいるひとだった。その組木を、もしかしたら尾形さん自身だって理解していないかもしれないのに。
食べ終わった僕に、尾形さんはちゃんと寝ろ、と言った。
「警戒は俺がやる」
「…まあ僕に出来るとは思いませんけど、寝なくて良いんですか」
「眠りはする」
「あんまり浅い眠りを続けるのは医者として容認出来ませんからね」
それでなくても病み上がりなんですから、という言葉だけに留めた僕は多分とてつもなく寛大だった。
それを理解しているのかしていないのかは分からないが、尾形さんは微妙な顔をしてから神妙に頷いてみせた。
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