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やっと尾形さんがあれやこれやの説明してくれたのは結構移動してからのことだった。此処まで来れば良いだろう、とのことだったが逃げるということを考えたら何処まで行っても足りないような気がする。ぽつり、ぽつり、と語られた話は僕にはあまりに壮大すぎてあまり理解が出来なかった。
「はあ…」
アイヌの金塊。埋蔵金。なんとも夢物語だ。その暗号を囚人に刺青として入れ、その囚人が集団で逃げ出したのを一人ひとり―――いや、もうこの場合一枚一枚と言うべきだろうか―――集めて、その暗号を解こう、だなんて。果てしなく遠い話のように思えた。そもそもその埋蔵金の換算額だって途方もなさすぎて実感が湧かない。
「尾形さんは金塊が欲しいんですか?」
一応聞いてみたけれども尾形さんから返事はなかった。予想していたのでそれ以上は追求しなかったけれど。
尾形さんは金塊自体に興味がある訳ではないのだろう。その理由まで僕が聞こうとは思わなかったけれど。暫くは鶴見中尉から逃げること優先だな、と尾形さんは言った。尾形さんはとても簡単なことのように言ってくれるが、こっちとしてはあの鶴見さんから逃げられるようには思えなかった。それに、今の話を聞く限りそもそも目的が同じなのだ、逃げたところでどうせかち合うことになりそうだ。そうなった時、僕は真っ先に死ぬのではないだろうか。ああ、儚い人生だった。まだ読みたい論文が山程あったのに。僕のその嘆きは言葉に出ていたようで、尾形さんはじろり、とこちらを見てきた。
「殺されはせんだろう」
「分かりませんよ」
既に諦観に入る僕に尾形さんは強い瞳で言った。
「殺させやしない」
その言葉と強さに、僕は暫く言葉を失った。何と言って良いのかまったく分からなかった。尾形さんがまさか僕にそんなことを言うなんて思っていなかったのだ。
「…それは、」
僕は何を言おうか迷ってしまった。幾つか、予想はあった。尾形さんが一体どうしてそんなことを言ったのか。尾形さんが情報を持っているように、僕にだって情報は与えられるのだ。目の前の人々を観察するだけで、人の言葉に耳を澄ますだけで、僕にはそれは立派な情報だ。でも、僕は断定することが出来なかった。尾形さんが僕に最初に見張りとしてついたのはきっと僕の出自の関係であろうけれど、一応平々凡々ということにしっかり偽装していたはずのそれが何故漏れたのかはさておき、今連れ出されたのは違う。
どうして、尾形さんは僕を連れて来た?
僕なんて、いない方が良いだろうに。だって切り札になんてならないのだ、それを尾形さんも分かっている。まあ鶴見さんが何とか使えるようにしてしまうと、そんな杞憂を抱いているのであれば、なるほど仕方ないとは思うけれど。
多分、そうではないから。
足手まといにしかならないだろうに、尾形さんは一人で行けただろうに。どうして僕を連れてきたのだろう。
「…尾形さん」
「センセー」
今日はもう休もう、と先に言葉を発させてしまえば、僕はそれ以上会話を続けることが出来なかった。
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