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 移動は専ら山を突き進むというものが多かった。追手が掛かっている可能性が高いのだからそれは仕方がない、とは思うけれども。だから僕は文句を言わない。正直山に入るのは久しぶりだったが、今までなかった訳ではないのだし。尾形さんも何も言わないがこれでも多分僕に配慮してくれているのだろう、と思う。連れてきたからにはそれくらいしてもらわなければ、という思いと、尾形さんそんなこと出来たんだ…という思いがせめぎ合っていることがない訳ではないが。
 ともあれ、尾形さんだって上等兵なのだ。つまり部下がいる。僕のことは出来の悪い部下だとでも思えばやっていけるだろう、とは思った。こんな一般人的な部下がいたとも思えないが、その辺りはどうせ自業自得だ。連れ出した発端は尾形さんなのだからそれくらいの責任は取って貰おう、と僕は勝手に決めて何も言わないことにした。まあ、その分頑張ってはいるので許されるべきだろう。それに、足を引っ張っている自覚があるのであれば、他の部分で補えば良いだけだ。幸いにも此処は山だった。だから僕はついでとばかりに幾つか薬草を摘んでいく。出来るだけ身軽な方が良いのだろうが、路銀はあった方が良い。尾形さんは僕が何をしているのかすぐに気付いた。
「センセー、そういうのも分かるのか」
「一応。一通りやりましたからね」
一時は西洋医学と東洋医学がぶつかりはしましたが、どちらも出来て困るようなことはないんですよ、と僕が言うと尾形さんはよく分かっていなさそうな顔でそうなのか、とだけ呟いた。僕も別に理解して欲しくて言った訳でもないので深くは突っ込まなかった。

 そうして久しぶりに街に出ると、運良く刺青人皮の噂を聞くことが出来た。なんでも賭場に置いていかれたものであるらしい。持っていた人間が本当の価値を知らなかったのか、それともその価値に見合うだけの大負けをしたのか。どっちにしろあまり考えたくはないことだな、と思う。茨戸にあると聞いてそのまま突き進んだその手前の町で、尾形さんは僕に向き直った。
「センセーは此処で待ってろ」
「またですか!!」
流石に叫んだ僕は悪くはないだろう。まさか手前まで何も言われなかったのに此処で言われるとは思っていなかった。まああまり自分の目の届かない範囲に置いてはおけないとでも思われているのか。警戒されていることはないだろうけれど。
「いや、もう目的話したんですから置いていくつもりなんじゃないかとか、当分は考えませんけどね」
僕が説明を要求していることは尾形さんだって分かっているはずだ。此処は僕だって言葉を使わずに圧だけでどうにかしようと思う。尾形さんが察しの悪い方ではないことが僕にバレていると、そのことだって分かっているはずだった。だから僕は何も言わずにじっと尾形さんを見つめるだけにする。
「…チンピラたちがごろごろしてる町だ」
観念したように、尾形さんがそう絞り出した。
「アンタには似合わん」
「そこは似合う・似合わんの話で良いんですか」
「ああ」
 少し待ったがそれ以上言うつもりはないらしい。どうにもまだ何か隠し事があるように感じられたけれども、尾形さんが嘘を言っている訳ではなさそうだ。なら、僕は折れるしかない。
「…分かりましたよ」
端的に言って僕は足手まといなのだ。それくらいは言われずとも分かる。というか自覚がある。僕だってそれなりに体力があって此処までの移動にだって困らなかったけれども、だからと言ってやはり戦闘経験がある訳ではないのだ。兵隊さんである尾形さんとはまったくもって違う。僕はやはり兵隊を一度くらいやるべきだったのだろうか。分からない。結局、僕は兵隊やそれに類することをやったことがない。それだけが事実だ。
 僕が黙り込んだことに何か思うことがあったのか、尾形さんが言葉を続ける。
「ちゃんと待ってたら、」
何を言うつもりなのだろう。僕は興味津々に尾形さんを観察する。
「何か一つ聞いてやる」
「じゃあ大福が食べたいです」
間髪入れずに答えた僕に尾形さんは驚いたようだった。
「…大福?」
「最近食べてなかったので」
 大福、と繰り返される。だから僕も大福です、と繰り返す。
「それで良いのか」
「逆に聞きますけど」
これは、仕返しだった。だから僕は意識して表情を作る。
「どんなの想定してたんですか?」
 尾形さんを見る僕はひどく挑戦的に見えたことだろう。少しだけ目を見開いて、ぽかん、としているようにも見えた。僕だから分かったと言えばそうだし、恐らく他の人には分からないだろう変化であるから、それが僕の願望だろうと言われれば否定は出来ないが。
 しばらくして尾形さんがニィ、と口角をつり上げた。
「分かった、大福だな」
「とっときのやつが良いです」
「じゃあこの町で一番良いやつ選んで待ってろ」
いい子にしてろ、なんて言葉には僕の方が年上なんですけど、と言うしかなかった。


















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