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今回は三日も待たされることはなかったな、とその姿を見て僕は思った。道端に風呂敷を広げて行商の真似事をしている僕を、尾形さんが上から覗いてくる。
「大繁盛じゃねえか」
「おかげさまで」
連れが戻ったのでそろそろ店じまいにしますね、と言えば物珍しそうに集まっていた見物人たちからはええーという声がした。でもこの町にだって医者はいるのだ。これ以上流浪の身の僕が商売の邪魔をする訳にもいかない。
「先生、軍医さんだったのかい」
「いえ、違いますよ。この人は僕の用心棒さんですよ」
「へえ」
「とても強いんですよ」
「おい」
「強いですよね」
「そうだが、あまりそういうことは言うな。大体、そういうのはナメてる奴から殺していくのが定石なんだよ」
「僕の前で人を殺す算段をするとはいい度胸ですね」
暇なら手伝ってください、と言うと尾形さんは慣れたように僕の荷物に手を付けた。特に今まで何を言ったことはなかったけれど、やはり観察されていたのだろうなあ、と改めて思う。でなければこんな的確に荷物を元の場所に入れていくなんて出来ないだろう。助かるので何も言わないけれど。それに、尾形さんだって此処に毒を仕込んだりなんだり、つまり僕の邪魔をするようなことはしないはずだ。それくらい織り込み済みで行動しているだろうから。
「そちらの目論見もうまくいったと見て良いですか?」
「まあな」
「それは良かった」
少し離れた場所からこちらを伺っている二人組に気付いていない振りをしながら、僕はでは、お世話になりましたー、とその場をあとにした。
何か試されていたような気がするので、気付いていない振りは必要なかったかな、と思いながら僕は尾形さんに引き合わされた二人組の前に立っていた。どちらも老人だ。しかし、なんと言ったら良いのだろう、歴戦のつわもの、という言葉の擬人化というのはこのようなことを言うのだろうか、なんてぼんやり思いながらとりあえず、と僕は頭を下げる。尾形さんはセンセーだ、としか言わなかった。説明は全部放り投げられたような気がする。
「伊佐早順玲です。医者です」
「土方歳三だ」
「永倉新八と言う」
「………ええと、はい? なんかとんでもない名前が聞こえたような気がするんですが?」
流石の僕でもその名前は聞いたことがある。ものすごく聞いたことがある。というかこの国でその名前を知らない人間はいないんじゃないのか。
「同姓同名の方」
「本人だ」
思わずこぼした言葉は本人に否定された。尾形さんを振り返る。
「ちょっと尾形さん! 説明を要求します!!」
「カクカクシカジカ」
「それで通じる訳ないの分かってますよね?」
そんな僕たちの遣り取りを見て、土方さんはフッと笑った。
「仲が良いな」
「いいえ! まったく!」
「即答かよ」
その言い方が何か不思議で、僕は尾形さんを見つめてしまう。
「え、尾形さん、僕と仲が良いつもりでいたんですか」
「主治医にあれだけ言われたらもうそれで良いと思うだろう」
「白栖先生ェ…」
まさかそんなふうに尾形さんの中で変化が生まれていたとは、そしてそれが白栖先生の所為であるとは。のほほんとした笑みが脳裏に浮かぶ。あの狸ジジイめ。
「尾形」
土方さんが尾形さんを呼ぶ。
「良い相棒だな」
そして尾形さんの反応をまたずに僕へと向き直った。
「奇人変人ばかりだが」
その強い瞳に僕は正直気圧される。
「大丈夫か」
「此処で大丈夫以外に何を言えと言うんです」
けれども、引く訳にはいかなかった。尾形さんが何か頑張って連れて来た人たちだ。僕が此処で引くことは出来ない。
「ねえ、尾形さん?」
その言い方に、尾形さんはやっと気付いたらしい。
「…怒ってるか」
「いーえ。怒ってません。病み上がりだって言うのに無茶苦茶した上に怪我増やして帰ってきたことになんて、いちいち怒ってられませんよ」
「………怪我は、仕方ない」
「仕方ない?」
「………スミマセンデシタ」
「よろしい」
僕はとても寛大なので今回はこれで許すことにした。まあ尾形さんの回復力なら適切な処置さえしてあれば困ることはないのだろうなあ、と思う。医者要らずなんじゃないのか、この人。
でもあとでちゃんと診ますからね、というと尾形さんは神妙そうにこくり、と頷いた。
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