道化師も笑えない
距離が縮まったとは思わなかった。別に、縮めたい訳でも縮まって欲しくない訳でもなかったから別に良かったけれど。それでも彼のような人間にしては随分曖昧な距離だな、と思っていたから。
「…君は、」
考えることを放棄することを忘れたような眉間の皺から、声がしたような気がした。実際はそんなことはなく、ちゃんと口から出ていたけれど。幾らセナが狂っているとしても、その頭の中まで見れるほど賢い訳じゃあない。
「恋人を作ろうとは思わないのか」
「もしかして口説いている?」
「まさか」
「だと思った。なら何故?」
「君が、」
ホッチナーは言葉を溜めども、口ごもることはしない。
「まるで人生を捨てているように見えたから」
「随分規模の大きいことを言うのね」
「人生は短い、幸せになっていいんだ」
「誰の言葉?」
「同僚」
「だと思った」
ふ、と唇から吐息が漏れた。
「貴方には似合わない」
笑えていたのだと思う。
笑う以外に表情など持っていなかったのだから。
prev /
next
ブラウザバックor戻る
ALICE+