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 暫く、やることがなかった。家永さんは案の定嫌がったので僕は彼(彼女?)の治療を手伝えなかったし、僕だって手が足りているところへと無理に入っていくような図々しさは持ち合わせていない。僕が思ったようなことを尾形さんも僕に思っていたのか、薬草を集めに行きたいと言えばついてきてくれたし、町に売りに行きたいと言えば少し離れたところにいてくれた。まあ、悪い距離ではないと思う。
 僕はあの日、言われた言葉を反芻する。
―――だからちゃんと殺した。
―――センセーが何処にも行かないように。
あの言葉を、僕はどう受け取れば良いのだろう。尾形さんに聞いても今は、正しい答えなど得られるとは思わなかった。どう考えても丸め込まれて終わりだ。そんなの、考えなくても分かる。だから僕はじっと黙ったままでいるのだろう。
 本当は、知りたいのに。
 知りたくてたまらないのに。
 尾形さんがどうして僕を連れ出したのか、その解えを。でも冷静な部分が邪魔をするのだ。それは今知ることじゃない、そもそも、尾形さんが答えてくれる訳がない。もし本当に知りたいのなら、この状況に対応し切らなければならない。今僕に、それは出来ていない。
「何処にも行かないように、なんて」
尾形さんには僕が何処かへ行けるような人間に見えていたのだろうか。尾形さんが見ていたのは、それこそ勤務中の僕ばかりだと言うのに? 僕は芋にいた時も、そのあとも、大した行動力なんて見せてないだろう。何処か遠くへと行ったこともない。旅行だって行ってない。尾形さんに昔した旅の話もしたことがなければ、遠くへ行きたいようなことを呟いた記憶もない。
―――どうして。
 どうして、尾形さんはあんなことを言ったのだろう。彼の中の何が、一体全体あんなことを言わせたのだろう。僕は尾形さんの医者なのに、尾形さんは僕の患者さんなのに、そんなことすら僕には解明が出来ない。これを解明出来るのは僕しかいなくて、そして恐らく解明したいなんて思うのも僕しかいないのに。
「はあ…」
「ため息か」
「ため息だって吐きたくなりますよ」
「売れ行きは良いみたいだが」
「そうですね」
「………もし、」
片付けを手伝ってくれる尾形さんがぼそり、と呟く。
「俺に何か言いたいことがあるなら、」
 僕は顔を上げる。尾形さんの表情は逆光になっていてよく見えない。
「言わんと分からんぞ」
「………永倉さん辺りに何か言われましたね?」
問いの形をしてはいるが、これは確認でしかなかった。尾形さんは答えない。そうだろうと思ったが。
「その台詞を、」
だから僕は尾形さんが持っていた最後の瓶を取り上げて、自分でしまう。
「尾形さんが自分で考えて言ったのならまあ、何かしら答えたかもしれませんね」
 そんな日は。
 来ないのだろうけれど。
「あんまり似合わないことをするのは医者としておすすめしませんよ」
「………分かった」
「分かったならよろしい」
否。
 来ない方が良いのだと思っている。
 きっとこんな僕は狡いのだろうな、とは思ったけれど、此処にはそんな薄暗い狡さを指摘する人間などいないのだ。


















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